王子!ピンチです 3
「なーにを馬鹿なこと言ってるのかしらね」
おほほほほ。
語尾にそう付きそうな雰囲気の声が空から降ってきた。
そ・・・空耳でしょうか。
この森に似つかわしい。
高ビーな声です。
「空耳じゃないわよ」
上を見なさいな、と命令口調です。
わたくしと王子は渋々といった表情で上を見上げました。
「パンツ穿いてるじゃないか」
如何にもがっかりといった顔で王子が即座に告げました。
ええ、即座に。
・・・教育を間違ったのかもしれません。
でもわたくしのせいではありませんので、ここは修正不可で納得です。
確かにわたくしも一瞬黒い何かを見かけましたが・・・視線を即座に背けました。
「当たり前でしょ」
そう告げた女は背中に生えた蝙蝠のような羽を軽く羽ばたかせて地面に降り立ちました。
その姿はかなり短めのスカートに、胸元を被ったバンド。
肢体を隠すように真っ黒なマントを羽織っています。
真っ赤な髪の毛がどことなく生意気そうですが、浅黒い肌に浮かぶ唇は朱がさしていて艶めかしく。
細い腕には、髪と同じくらい真っ赤な腕輪を填めています。
その女は、いわゆるスレンダー“美女”でした。
王子の好みから言えば、結構当たりのはずなのですが。
その王子の反応は微妙でした。
女の顔を一瞥した王子の表情がみるみるうちにおぞましいモノを見たかのように変わりました。
「よくも気持ちの悪いモノを見せたな」
「あら。もうばれたの」
???
わたくしめには今の会話は理解不可能です。
「ふん。当たり前だ。俺様を何者だと思っている」
どこまでも斜に構えた王子です。そんな王子は今は無視です。
「あの、お嬢様。ここはどこでしょうか」
お嬢様、という言葉に女がピクンと動きました。
にっこり笑って、わたくしを振り向きます。
「ここはね・・・どこだと思う?」
「ブラグラだな」
王子が即答した。「何よ、少しは間を持たせなさいよ。つまらない男ねー」
「ブラグラのどこあたりになるのだ」
完璧に女の言葉は無視である。
女は薄く笑って、「ど真ん中よ」。
「はい?」
思わず返事がひっくり返ってしまいました。
真ん中って。
ブラグラは、国の中心からドーム型に結界張ってありますよね。
他国が攻めにくい最大の理由です。
結界はきわめて強固で、人間の術士が数人集まったくらいでは屁でもありません。
世間の一般常識です。
「どうやって進入したのかしら。坊やたちは」
ペロリと女が舌で自分の唇を舐めました。
「知るか」
「ふぅん。でも、坊やなんて、あのブルーディアのおばかな王子にソックリだしぃ。ここでああそうですか、って逃がしちゃえるほどあたしも甘くできる立場じゃないので。事情を聞きたいのよ。だから、とりあえず、拷問につきあってもらえるかしら?」
いや・・・激しく遠慮します。
拷問、なんて素敵過ぎる響き、聞きたくありません。
「誰がおばかだ」
そして、王子、反応するところが違います。
ここは白を切るところでしょう。
「だから、おばかっていってるのよ」
クスリと美女が笑いました。
そして、その羽が・・・羽ばたきました。
振動を持って。
振動・・・。
何でしょう。体が揺れてる・・・のですが。「お、ぉじ」
目線を王子に送ろうとしますが、うまく動けません。
びりびりとしびれているような。
それは王子も同じようで。
「くそっ。変な技を・・・使い・・・・・・・・・・・・・・・」
バタリ。
一人立ち残った美女は、ふふふと微笑を浮かべながら、倒れた二人に近づき、ヒョイヒョイと両脇に男たちを抱え・・・羽ばたき・・・そしてどこかへと飛び去ったのでした。
気絶したわたくしと王子には、向かう先など知るよしもありませんでしたが。