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猫姫  作者: 四季道理
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王子!ピンチです 2





 ディディディ。


 あーうるさいですね。

 鳥の声でしょうか。

 王子に苛められて、夕べ、わたくしとしたことが窓を開けたまま寝てしまったのでしょうか。

 いけませんね。


 あふーん。


 鳥が頭をつついてるようですが、もうちょっと寝かせてください。

 しかし、この布団・・・丸いですね。

 丸いです。

 こう全身を覆ってくれないと、ちょっと肌寒いではないですか。


「いいかげん起きないか・・・ルディ」


 ゆったりとしたまどろみの中から、冷え切った氷の塊を顔面にぶつけられたような衝撃が全身を駆け抜けた。そういえば、この布団、妙に人型をしているし・・・おそるおそる眼を開けて見覚えのありすぎる青いまなざしにぶつかって「ぎゃあっ!」っと放り投げた。


「馬鹿力で抱きしめて寝やがって」


 苦虫をかみつぶしたような表情で、片膝を付き起き上がる王子がいた!


「お、お、王子っ!何でここにいるんですか?ハッ。もしや趣旨替えですか!?女の人に相手されないからって、わたくしめなどと・・・」


「するか、阿呆っ」


 剣の束で頭をしこたま殴られて、わたくしもハッと正気に戻りました。

 そういえば、わたくしも王子もネネさんの生み出した怪しげな闇に包まれたのでした。


「あれは、死出の闇ではなかったのですか・・・もしかして、もう死んでる?」


 王子と一緒に死の世界は嫌だなぁ、というのが思いっきり顔に出ていたのだろう。


「俺様も、死んでまで男と一緒はごめんだ」


「では、まだ生きてるということでしょうか」


 王子がゆっくりと立ち上がる。

 そして、ルディも横たわっていた地面から同じように立ち上がった。


 居心地の良いと思っていた地面は、土ではなく・・・奇妙な葉っぱであった。

 地面から生えた茎に巨大な葉っぱが広がっている。新芽のようだが、大きすぎる気がした。


「生きている。気に入らないことな」


 ち、と舌打ちして王子が腰を落とし、剣に手を掛けた。

 その眼が鋭く周囲に向けられる。

 正確には、巨木。

 見たことも聞いたこともないほど巨大な木が眼前にそびえていた。


「構えろ。何か来るぞ」


「我は望む。水の防波堤っ!」


 呪文を唱えるのと、王子の言う「何か」が飛びかかってきたのはほぼ同時であった。


 王子の剣が宙を舞い、わたくしの作り出した水の障壁を割り、その先に潜んでいた「何か」を切り裂いた。  

 醜悪な紫色の絵の具が周囲に飛び散っていく。

 剣の刃を紫の液体が流れ落ちていく。


 地面を黒く染めていく・・・それは、血。


 真っ二つに割られ、地面に横たわるのは・・・人の形に近い・・・全身毛むくじゃらの獣。

 大きさは人の倍はありそうである。

 そして、倒れた顔からは、凶暴そうな牙が除く。

 あれに噛まれたらさぞかし痛いだろう。

 まあ痛いで済めば良いのだが。



「あれは何ですか」



「知らん」



「ここはどこですか?」



「知らん」



 周囲はうっそうとした木々に囲まれ、人造物の気配はない。

 ただ濃厚な森の気配があるだけ。

 だが、その気配は見知った森のものではなく。 

 見たこともないほど巨大な木であったり、葉っぱであったり・・・


 どうやら、二人そろって・・・転移させられてしまったらしい。

 

 わたくしめは気づかぬうちに、不安げな視線を王子に送っていたようでございます。

 王子がわたくしめをおもんかばってか、ニヤリと笑いました。

 ああ、たぶん、安心させようとお考えになったのだと思いますが。



「安心しろ。天地がひっくり返っても、男に手はださない」



 ・・・。


 この王子に一瞬でも、心を期待したわたくしめが愚かでした。

 これも王子の顔がなまじっか良いせいです。

 見慣れたわたくしでもついうっかり信じてしまいそうになる。


 それを思えば、王子の顔に一瞬たりとも動じなかったコトさんはすごい存在でした。


 いや。

 そんなことを今考えている場合ではないわけですが。


 王子もそんな下ネタを考えるよりも、他に考えることがあるじゃないですか。


 たとえば、コトさんとネネさんの行方とか。

 ブルーディアでは第一王子が消えて、今頃大騒ぎになっているかもしれないとか。


 もしかして、コトさんたちは最初からこの場所にわたくしたちを送るのが狙いであって。



「国王が早合点して、俺様が廃嫡になってないといいがな」



 何気に考えかけていた予想をあっさりと口にされて、わたくしはがっくりと肩を落としたのでした。



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