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猫姫  作者: 四季道理
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サド王子の恋わずらい 4



 昔から、気に入らないことがあると、城を抜け出し、馬を駆っては森へ行っていた。

 今となっては、どうでもいいことが多かったような気がする。



 城からある程度離れると、王子は手綱を緩めた。

 ハーンの速度もそれに伴い落ちていく。


「街へ行ってみるか。見たこと無いだろう」


 たてがみをぎゅっと握り、珍しくおとなしく腕の中に収まっている少女が俺様を振り向き、こくんと頷いた。

 どうやら興味はあるらしい。

 

 街の入り口の馬屋番にハーンを預け、降りる。

 少女はうまく降りられないらしく、あぶみに足をかけたままもたもたとしていた。

 あまり運動神経の良いほうではないのだろう。

 仕方ない。

 後ろから両脇を抱えひょいと持ち上げて、地面に下ろしてやると、かすかに驚きとともにもう一度見つめられた。

 何なんだ?


「ありがとう」


 少女は礼を言った。

 何か鈍器のようなものでガツンと殴られたような衝撃。

 そして、体の芯が震えたような気がした。


 俺様の反応など解さず、少女はさっさと俺様から離れて、キョロとあたりを見回した。

 見えるのは、街を囲む巨大な外壁と街へ続く扉。


「ここはまだ街ではないんだな」


「あ・・・ああ」


 思わず言い淀む。

 理由はない。

 理由はない。


「城を守るように街があるんだな」


「当たり前だろう。王を守るために民がいるのだ」


 外敵が攻めてきたとき、最初に攻撃されるのは外壁にも入れない流浪者。次が国民であり、最後が城である。

 数十年前の戦でも多くの民が犠牲となった。


「違うだろう」


 少女はさっさと歩き出していた。

 おいこら、勝手に動くな。

 その手をつないで、足を止めさせた。

 わずかに嫌悪感をにじませるが、いつものように振り払うことはしなかった。

 それに俺様は何故か安堵した。

 少女は代わりに先ほどの言葉の続きを紡いだ。


「民は自分たちの身を守るために王が必要だと思っている。だから、守ってくれるんだろう。王様を」


 ・・・。

 何を言われているか理解できなかった。


「いい、王様なんだろう」


 理解していない顔をしているな。

 といって、少女は再び歩き出す。

 俺様は何を言っていいのか分からず黙った。


 巨大な扉は平時は開けられない。

 開くのは祭事の時と、有事の時だけである。

 その小脇にある小さな扉の前に来ると、兵士が俺様の顔を見て頭を垂れた。

「開けろ」

「はっ」

 すぐさま扉が開けられ、潜ると一気に喧噪が押し寄せてきた。


「予想以上に賑やかなんだな」


「当たり前だ。ブルーディアは、これでも大陸で有数の国だ」


「この世界はいくつ大陸があるんだ?」


 ・・・?

 大陸の数など、一つしかないに決まっている。

 この少女は何を問うているのだ。

 疑問が顔に出ていたのだろう、少女はわずかに視線を動かした。


「質問を変えよう。この大陸にはいくつの国があるのだ?」


「5だ。人の国のブルーディア、イエディム、レズラ、グラヴィア。そして、魔族の住むブラグラ」


 少し学のある者であれば誰でも知っている基礎知識である。

 よほどニホンというのは辺境の村なのだろう。

 

 王子の中で、“ニホン”は国ではなく、村だと定義されていた。

 魔物であるコトが過ごせるような村。

 ブラグラの中の一つかもしれないが、ブラグラは他国と交流がなく、ほとんどの情報は皆無であった。

 時折、辺境の魔物が飢えて、人の村を襲う。

 そのときに対立する程度なのである。


「そうか」


 ふむと少女は頷いて、俺様を見上げた。


「ところで、先ほどから気になっているのだが、何故手をつないだままなのだ?」


 触れているところから鳥肌が立っているので外してもいいか?と聞いてくる。

 誰が外してやるか。


「だめだ。はぐれたらどうする」


「逃げる?」


 首を傾げて、あっさりと自らの行動を示してくる。

 こちらの気も知らずに。


「一瞬で襲われて、春をひさぐところにでも連れて行かれるに決まってる」


「春をひさぐ?」


 知らないのか?意味を。


「つまりだ・・・キ・・・キスの続きとかを強制的に他の男相手にさせられるところで」


「ああ。売春宿のことか」

 

 ためらいながら言いつのった俺様の言葉に、あっさりと少女は頷いた。


「なるほど。それは困るな。仕方がないので鳥肌は我慢するか」


 そして、俺様がほぼ一方的につないでいた手に軽く力を込めて握り返してきた。


 少女の行動に、知らずドクンと心臓が跳ね上がる。

 顔が熱くなる・・・何なんだ・・・俺様は・・・。

 病にでもかかったのか?


「どうした顔が赤いぞ」


「何でもない」


 俺様は軽く頭を降り、とりあえず街中の案内を開始した。



 

 まあ、後ろに何も言わずに付いてきたルディに後から言わせると・・・。

 俺様が案内していたのは、いわゆる「女の子」が好きな場所ではなかったそうで。

 武器や防具の店・・・後は、魔道具の店などだった。

 行く先々で、少女と手をつないだままの俺様を不気味に店主や客が見ていたが、そんな視線に俺様が動じるわけもなく。

 当初の目的であった笑いこそしないものの少女は、俺様の案内する店に行って、あたりを見回し、店主や客に声を掛けていたところを見ると興味がないわけでもないという結論に至った。

 

 

 

 というわけで、途中まで俺様は大変機嫌良く・・・理由は相変わらずわからないが・・・進んでいた。



「コト!」



 低い男の声・・・が聞こえてくるまでは。



「コト!」



 少女が足を止めた。

 そして、あたりを見回し、道行く人々の頭の中、ある一点に視線を止めた。


 黒い長身の・・・男。

 何故か炎の気配を感じる。


 俺様の肌をチリチリと焼く・・・その魔力の源は。




「コト・・・見つけた」




 何層もの花びらが重なり、あでやかに花開く真っ赤なローゼリウムのごとく微笑んだ男。




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