サド王子の恋わずらい 3
しかし、動物か・・・。
俺様は頭をひねってみたが、犬はもちろん、猫にも嫌われこそすれ、好かれたことはない。
幼い頃に噛まれたことに腹を立てて2、3回蹴ったのが唯一の接点である。
!
馬か。
馬なら大丈夫だな。
「おい、コト。出かけるぞ!」
部屋に戻り、扉を勢いよく開けると、ルディが用意した侍女と少女がいた。
誰に着せされたのか、城で支給される紺色の制服とよく似た衣装を身につけていた。
その衣装は、胸元が白く若干胸が強調されているのと、胸の下できゅっと窄まっているのが違っていた。
後は、スカートの裾に少しフリルが付いているくらい。
長かった髪を二つに分けて、その根元を頭のてっぺんで縛りそれぞれ耳のように左右に垂らしている。
やや困ったように首を傾げているが、その様子には好事家がこぞって金を出しそうである。
そういえば朝見た服装とは異なるようだが、なぜこの女は部屋で着替えなんぞ・・・もしや、誰かと逢い引きでもするつもりなのか?
「かわいい・・・」
ぼそりとルディが小さくつぶやくのを耳にして、一瞬睨め付けた。
そして、自分の機嫌が急降下していくのを感じた。
「ふん」と鼻を鳴らした。。
「下履きは何か穿いているのか」
馬に乗るときに、何も穿いていないと暴れられては困る。
「ズロースを」
ズロース?
ああ、長いズボンの薄いようなものか。
あれなら少々スカートがめくれたところで、足は見えない。
「ならば良いか」
俺様はコホンと咳をして、ふと窓の外を見た。
どこまでも抜けるような青い空である。
「今日は天気が良い」
少女に寄って、首輪から鎖を外した。その手を掴んで「来い」と歩き出す。
怪訝な顔で少女が俺様を見上げてくる。
なんだ、その物言いたげな視線は。
「馬には乗れるか」
「生まれてこの方、馬に乗ったことはないのでわからない」
愚問だったと知る。
「まあ、気にするな」
言い捨てて、扉に手を掛け、ふと少女を見た。
首輪があると、あからさまに魔力を封じているのがバレるか。
「何」を封じているまでは素人にはわからないだろうが。
「首輪を人目につかないようにしておこう」
言って、手を首に添えて口のなかで呪文を唱えると、首輪が消えていた。
久しぶりに見る少女の白い喉元に何故かつばを飲み込んだ。
どういう反応か自分でもうまく説明できないことだけはわかってる。
俺様は何をしているんだ?
「馬をひけ!」
ルディが先に行って、馬を用意してくれていた。
一緒にいたはずだが、いつのまにか先んじて動いている。こういうところがルディらしいと言えば、らしい。
用意されていたのは愛馬ハーン。
漆黒のつややかな毛並みをした俺様の馬は、少女を見てブルンと鼻を鳴らし、尻尾を揺らした。
元々は野生の馬で、それを捕らえてきたせいか、当初は気が荒く人を乗せるのは嫌がった。
かなりの訓練を経て、俺様の馬となった今も馴れていない者には平気でかみついたり蹴ったりする。
もちろん、今まで誰かと一緒に乗ったことはない。
だが、ハーンは何を気に入ったのか少女に顔を近づけて鼻面を押しつけている。
「わ、わ」などと言いながらも少女も全く嫌ではなさそうだ。鼻面を撫でている。
「お前、きれいだな」
撫でながら、馬に囁いている。
馬と会話でもできると?馬鹿な。
「なれ合っていないでさっさと行くぞ。先に乗れ」
「どうやって?」
俺様は手で手綱を軽くつかみ、鐙に足を置いて、鞍を持つとひらりとその背を跨いだ。
駆け出さないように手綱は緩めたまま。
「ほら、来い」
手をさしのべるが、少女は困惑の表情である。
「ルディ。足場でも用意してやれ」
命じるとルディが近寄って、箱を馬の傍らに置いた。
少女はルディの手を借り、箱の上から俺様に手を伸ばした。
軽く背をかがめて、少女の腰ごと一気に馬上へと引き上げて、馬の首と俺様の間に座らせた。
初めての馬上が予想以上に高かったのだろう。
目を丸くして、ルディを見下ろしている。
ルディは微笑ましく、少女を見ていた。
絡む二人の視線。
そこに何もないと分かっていながら、再び、もやっとしたものが胸の内にわき上がってくる。くそっ。何なんだ。
「ハーンのたてがみでも掴んでいろ。落ちるぞ」
俺様は、少女に一声かけ、馬の尻に軽くムチを当てた。
ハーンが人二人を乗せているとは思えないなめらかな動きで膝を曲げたかと思うと、一気に加速した。