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猫姫  作者: 四季道理
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サド王子の恋わずらい 2



 よく分からないが、胸の内がもやもやする。

 イライラすると言ってもいいかもしれない。


 それは、今朝、ルディが俺様を迎えに来たときから始まった。


 俺様はちょうど侍従に命じて着替えていた最中であった。

 その時間、ルディはひまでもつぶそうと思ったのか、ベッドの上でボーッとしている少女がに近づいた。

 さんざん寝ている割には少女の寝起きはすこぶる悪い。

 俺様がさんざん見送れと命じるのに、応じるために眠そうな目をこすりながら俺様の着替えを待っている。


 そして、ルディがそんな少女に近づき、話しかける。

 何を話しているのか内容までは聞き取れないが、よほど面白い内容であったらしい。

 

 ふと少女がルディに笑った。

 日頃、無愛想なだけに相好が崩れると甘い。

  

 その顔は俺様には一度たりとも向けられたことのないもので・・・胸の内がカッと熱くなった。


 それからはもやもやである。


 いつもならやらない訓練を汗だくになるまでやって、ルディを叩きのめしてみたが・・・すっきりしない。

 うちひしがれたルディを見ても余計イライラするだけである。「酷いです。王子」


 アレが原因であるとは分かっていた。


 さすがは魔物・・・惑わすのがうまいと言うべきなのか。

 ああ、そうだ。


 泣きわめくルディを適当に縛り上げ、地面に転がす。

 懐から、ムチを取り出すと、何か思うことがあったのかルディの表情が凍った。


「ひーっ。王子っ・・・わたくしは痛いのは苦手なんですが」


「うるさいぞ。ルディ」


 軽く振り下ろす。「いたーっ」ルディが痛みに声をあげてのたうち回る。

 

 もちろん、顔には打ち付けない。

 万が一があってはいけない。

 これでも王子はルディのことは気に入っていた。ありんこよりは。


「痛いか?」


「痛いに決まってますよ。腕、解いてください」


 涙目になったルディが王子を見上げる。

 男がそんな目をしても、そそられるモノは皆無である。

 しかし、今日ばかりはちょっとすっきりした気がした。


「そうか。まあ、あと2、3発我慢しろ」



 ひーっ


  ぎゃー


    いてーっ


      しぬーぅ



 いつもは女の「ひぃぃ」という悲鳴ばかり聞いていたので忘れていたが、悲鳴にもいろいろ種類がある。

 王子は痛みにのたうちまわるルディをムチ打ちながら、感慨にふけっていた。


「おっ・・・王子。そろそろわたくしめが死にそうなのですが」


 息も絶え絶えに言われて、地面を見れば・・・暴れすぎて泥だらけになったルディが・・・。

 服も切り裂かれ・・・。これで息絶えていれば、完璧に盗賊にでも襲われたと思われるであろう。


「試しに、一回、死んでおくか?」


「命は一回しかないので、勘弁してください」


「そうか?」王子はムチをしまって、小剣で縄を切ってやる。


「痛いのは苦手なので、勘弁してください」


 手首をさすりながら、おまけに背中もさすろうとして「イテッ」と悲鳴をあげている。


「そういえば。今日、アレと朝話していただろう」


「あれ?」


「ああ、アレだ。魔物の」


「ああ!コトさんですね」


 ルディが合点がいったという風に頷いた。


「ほら、何を話していたんだ?」


「はい?」


 完全に疑問符である。

 ぐだぐだせずに言えばいいのに。


「ああ、ほら。俺様はアレの飼い主だろう。一応、すべての動向は把握しておかないとな」


 言いながら、目が胡乱に動いてしまう。


「はぁ。今日話してた内容と言っても・・・」


 ええい。鈍いやつめ。


「もう一発、ムチ打ったら思い出すか?」


「ああ!!そうだ。動物の話をしていたんですよ。コトさん。動物が好きだということで」


 動物。

 動物ね・・・。


「それがどうかしたのたんですか?」



 少女を、ムチ打ってみたが。 

 嫌がりはしなかったが、無反応さに俺様がやる気をなくした。

 抵抗する獲物にこそムチ打つ価値はあると思っている。


 そして、笑うことはなかった。




 少女には、接吻キスもしてみたが。

 嫌がるそぶりはするものの。


 そして、笑うことはなかった。




 少女には、貝から捕れるという黒い真珠を首飾りにして贈ってみたが。

 俺様が無理矢理身につけさせた時を除いて、一度も胸元に飾られることなく、枕元にケースごと飾られている。


 そして、笑うことはなかった。




 少女は、俺様には笑いかけない。




 なぜだ?

 それが気にくわない。




 「どうかしたのか?」だと・・・。


 どうかしたのか・・・は俺様が自身に問いたい。


 


 ちらりとでも、少女が笑いかけてほしいと思うのなんか・・・本当に・・・どうかしている。





 

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