サド王子の恋わずらい 1
「うっぷ」
何度目になるか分からないキスをしてやっているのに、あからさまに嫌そうな顔。
おまけに唇を離した途端にこの反応。
ゴシゴシと手のひらで唇をこするのはやめろ。
「唇が荒れるぞ」とその手首を掴む。
細いな・・・。少し力を入れれば折れてしまいそうだ。
「せっかくきれいな肌をしてるのだ」
理由は無いが、手首の裏に口づけて、少し吸ってやった。
「止めてくれないか。跡がつく」
折角の助言もジロリと睨まれた。
「寵愛の証だろうが」
ムチの跡はいやがる女たちであったが、こうした接吻の跡は喜んで残させてくれた。
少女の肌は白く、口づけたところが紅く染まる。
湯浴みに行ったときに、女同士で自慢しているという話も聞いたことがある。
「要らんな」
にべもなく、少女は言葉を切り捨て今度はゴシゴシと服で拭く。拭いても消えるわけではないのだが酷い反応だ。
それにしても、この居室から出ることを許していない。
少女は決して言わないが、俺様には暇をしているのだろうとは容易に推測できた。
狭い居室に閉じ込められていれば、外に出たいと俺様に頭を下げてお願いしてくるかと思っていたが、未だに何も言ってこない。
俺様にはそれが面白くなかった。
これまでの女は少しでも抱けば、俺様の女顔で服や宝石が欲しいと強請ってきていたものだが。
「お前、昼間は何をしている」
「ぶらぶらしている」
「ふん」
会話はそれで終了である。
面白くない。
・・・面白くない?この俺様が?
「ふわぁあ」
少女が大きくあくびした。
「昼間、寝ているのだろう。飼い主の帰りくらい起きていられないのか」
思わず憎まれ口を叩くが、少女はそれには反応せず。
「悪いな。つきあってやりたいが、最近どういうわけかとみに眠くてな。昼間も半分くらい眠っているんだ」
そういい、さっさと自分だけ布団の中に潜り込む。
目を閉じたかと思うと、途端に、「くーっ」という寝息が聞こえ始めた。なんてやつだ。
「おい」
声をかけるが、無反応。
本気で眠っているらしい。
黒く輝くまなざしが消えると、少女の表情はまだあどけない。
これまで、俺様の傍らでそんな風に無防備に眠る女はいなかった。
おまけに命を狙われることも珍しくなく、遊んだ後、女たちと朝まで過ごすこともなかった。
少女の頬をそっと手の甲で撫でると、絹のようになめらかだった。
起きている時は、憎まれ口ばかり叩く少女だが・・・なぜか気になる。
この俺様が、ムチも使わず、毎晩、キスだけなんて・・・他のヤツらに知られたら間違いなく腑抜けになったと言われる。
「ぁあ・・・くそっ」
なぜかなで続けてしまう己の手に悪態を吐きながら、俺様は結局、自分が眠りにつくまで少女の頬をなで続けていたのだった。