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猫姫  作者: 四季道理
20/47

首輪をはめていました 2




 首輪が拘束プレイの一つだと仮定して。

 金髪の人の趣味なのだろうと推測する。


「○%%×¥¥」


 さらに、いろいろ考えてぼーっとしているうちに、ワタシの両手は茶色いお兄さんに押さえられ。

 そして、金髪の人がワタシの上に馬乗りに。


 おいおい。


 手にはきらりと光るモノが。


 何をする!


 どうせ抵抗しても無駄だろうと思い、様子を見ていたが、さすがに体を傷つけられる行為には敏感になる。

 意図することに気づいて、足をばたつかせたが思っていたとおり無駄なことであった。

 男二人に力づくで容易に抑えられ、チクリとした痛みが耳朶に走り「あっ」と思わず声を漏らしてしまう。

 

 その声に、金髪の人がワタシの耳を見おろしていた・・・かと思うと、頭を下げてきて耳元に顔を埋める。「かわいいな」

 ぎゃっ・・・言葉がいきなりわかるようになった。

 思った瞬間、耳朶をかまれたと知った。

 柔らかい唇が耳朶を噛み、ぬるりとする舌先が皮膚の上を舐めていった。「ひゃっ」

 ぞくりと下腹部に得体のしれない熱が宿り「んっ」と変な声を出してしまう。

 

 何なのだ。この甘ったるい声は。ワタシのか?


「消毒だ」


 金髪の人が古都の耳元から顔を上げて、もう一度囁いた。

 やはり言葉がわかるようになっている。


「・・・魔物の血を摂取するのは危険です」


 血?


 ああ、先ほどの行為は血を舐めたのか。

 おまけにあの金具を付けることで言葉が理解できるようになったと言うことは、自動翻訳機みたいなものなのだろう。

 この世界には魔法か科学があるのだろう。

 ・・・とはいっても、あのピアスの大きさに翻訳機を収めるためには相当の技術が必要だと考えれば、魔法の路線が強いと感じた。

 どちらにしても理由がわかれば抵抗する必要はない。


 もう片方の耳にも同じようなものを装着させられ、早速質問攻め。


 攫われて売られていたことなど分かっているだろうに。

 おまけに(たぶん)魔物だということも。


「誰と一緒だった?」


 金髪の人の目が古都を射貫くように見つめている。

 きらきらの金の髪に・・・青いまなざし。

 いわゆる美人な人である。

 

 ああ、苦手だ・・・こういうタイプ。 


 古都は無駄に色気のある、顔のいい男になぜか鳥肌が立つ。

 父親が同じようなタイプであったせいかもしれない。

 学校でもいわゆるもてる男性にはついぞ興味を覚えた記憶がない。

 むしろ・・・ネネのような・・・可愛い子供が好みである。

 もっとも苦手だからといって、目をそらすことはない。


 ああ・・・ネネ。

 どこに行ったんだ。

 こんな顔だけの青年ではなく・・・あの柔らかくてしなやかな体をぎゅっとしたい。

 

 ネネに会いたい。



「知っているのは、ネネだけ・・・」



 つぶやいたとたん、金髪の人の目が鋭く細められた気がした。

 古都の背筋をぞわりと冷たいものが這うような気がした。

 何だ・・・今のは。


「ネネ、というのか。それはお前の男か」


 確かにネネは男の子だが・・・ニュアンスが違うと思う。


「森で出会った男の子だ」


「そうか」


 それきり金髪の人は口を噤んだ。


 その後、二人は名を名乗った。

 ワタシの勘は正しく、金髪の人は王子らしい。


 サド王子にルディさんか。


 ここが異世界でなければ、目をむいて怒りそうな呼称である。


 しかし、本当にSだと思ったのは、首輪に鎖を付けられて「お前の飼い主」発言云々のところであった。


 ルディさんは、悲壮な顔つきでサド王子の宣言を聞いている。

 

 古都も半ば呆れを隠せない。

 何を考えているのだ。この王子。


「この国の将来は大丈夫なのか?」


 なにげに古都は思考を思わず言葉に乗せていることにも気づかない。


「あわわ」


 ルディさんが酷く慌てた様子でワタシの口を覆おうとしたが遅かった。

 ニヤリと王子が嗤ったのだ。


「面白いなお前。俺様に楯突くヤツはそうはいないぞ」


 楯突いているというか、普通に普通のことを言っているだけだと思う。

 

 王子が鎖をつかんでいた手を離し、古都の手首をつかんだ。


 ゾワリ。


 ああ、イヤだ。


「申し訳ないが、ワタシに触れるのは止めてもらえないだろうか」


「なぜだ?」


 口角を持ち上げて、柔らかく嗤う。

 ああ、覚えのある邪悪な感じ。

 仲の良い美空などはこうした笑いを格好いいとか言っていたが。

 

 ぶるりとワタシは体を震わせた。


「と、鳥肌が立つ」


 ・・・。


 ・・・。


 王子が目を見開いている。

 同じく動きの止まったルディさん。


 何か変なことを言ってしまっただろうか。


「ぶわっ」


 王子が破顔した。

 その声は笑い声だった。


 触られるのを止められたと思い、古都が気を抜いた瞬間。

 強く手首を捕まれた。「いたっ」

 眉根を寄せた瞬間に、顔の前に影が。


 柔らかい感触が唇をかすめる。

 

 何が起こったか理解できなかった。

 だが、呆然とした古都の唇の隙間をぬい、舌が口腔を触れたときに正気に戻った。「ゃっ」


 暴れようとするが、動けない。

 吐息が頬にかかった。

 閉ざすことを忘れた古都の目が、同じく閉ざされない青い瞳と真っ向からぶつかった。


 ああ、これが接吻キスか。


 古都だとて乙女である。

 もう少し浪漫のあるものを求めていたのに。

 無理矢理奪われるとは・・・無念である。


 古都には理解できなかったが、顔だけは良い王子は初接吻の相手としては手を挙げてでもしたいという女性は数多くいた。


 あわされた唇も、吐息も、絡み合う目も半分拷問に近い。

 こういう時は抵抗しても体力を失うだけである。


 耐えるのだ。


 耐えろ・・・。

 

 そうして一分くらいたっただろうか。


 ようやく王子が古都を離した。「ぷはぁ」

 息が出来なくて止めていたので、一気に空気を吸い込む。

 新鮮な酸素が肺に供給されて、大きく肩の力を抜いた。


「どうだ?」


 本人は甘やかなささやきだと思っているのかもしれない。

 その目は自信に満ちていた。

 よほど接吻に自信があるのだろう。

 確かに技巧としてはうまいのかもしれないが。

 こういうのはテクニックではない。


「ああ。見ろ」


 ワタシは鷹揚に頷き返し、袖をまくり上げた。

 見事に立ち上がったサブイボが王子の眼前に曝される。


「しばらく収まりそうにない」


 王子が目を剥いた。


 その傍らでクックッという鳥の鳴くような音が。

 見れば、ルディさんが口元を抑えて、横を向いている。

 肩が揺れているので、笑っているのだろう。


「ルディ。それ以上笑ってみろ・・・」

「は・・・はい」


 底冷えするような王子の声音にルディさんが笑うのを止めた。


 王子の目は古都に注がれている。



「お前の方から泣いて縋って、捨てないでと言わせてやる」



 ワタシはノーマルである。

 さらに、さっきこの王子・・・ワタシを飼うとか言ってなかったか?

 飼うとか言われて喜ぶ女の子はいるのか?いや、いない。

 少なくともMならあり得たかもしれないが、ワタシは痛いのは嫌いだ。

 


「それは総合的に判断して不可能に近いかと・・・」



 反射的にこぼれた言葉は、王子のプライドをいたく刺激したのだろう。

 ギッとにらみつけられた。

 反射的に肩をすくめてしまう。



「ルディっ。早く着替えてこい。早朝訓練に行くぞ!」



 

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