僕(しもべ)が出来ました 1
「げっげ、げげげの」といつまでも歌っているのにも飽きてきて
(それでも小一時間は歌っていたのだが)
ようやくあたりを見回すと見知らぬ森の中だった。
うっそうと茂った木々の間から、かすかに空の青さが覗く。
風が吹いて時折木漏れ日が差し込んでくる。
どうやらワタシは道に迷っているらしい。
どこでどう迷って、このような姿になったのかがわからないが、せめて雨でないのが救いだ。
これで雨でも降ったら悲惨だ。
どう悲惨かというと、どうやらあちらから唯一持ってきた制服が濡れるくらいという意味で。
道に迷うのはよくあること・・・もとい日常茶飯事だったので、古都はあまり動揺していなかった。
むしろ動揺すべきは姿の方なのだろうが、それも、アリかなということで己を納得させて、とりあえず立ち上がってみた。
遠くで「グケェェー」と鳥が鳴いた。
不思議な鳴き声だった。むしろ猛獣に近い。
しかし、鳥だと思ったのには根拠がある。
空から聞こえたのだ。
古都の常識に照らし合わせれば、空を飛ぶのは一つしかいない。鳥だ。
まあ、ここが異世界ならプテラノドンや竜とかいてもおかしくないが。
ふと頭上を影が指した。
そして目の端を横切ったのは、巨大な何か。
視界が真っ暗になった。
・・・。
・・・。
・・・。
いつまでも視界が元に戻らないので、古都はひょいと手を伸ばして、それをつまみ上げた。
「フギャァァァ!」
毛を逆立てているようだが、驚いたようだから仕方ない。
それにしても、どこまでも伸びそうな首。
そして、柔らかい毛皮。
真っ黒の姿態に、真っ赤な舌。
「なんだ、猫か」
のどの奥に炎が見えた。
「フギャァァァ!」
「ああ、そうか。この持ち方が嫌いなんだな」
ワタシはその猫をひょいと懐に抱え上げてやった。
猫はびっくりしたらしく、開けていた口をケホッと空中へ。
ポッと炎が点った。
ライターの炎のように一瞬で消えた。
「おお、本当に炎だったのか。芸達者だな」
古都の脳裏には、いかがわしいサーカス小屋で炎を吹く猫の姿が脳裏に浮かんでいた。「不憫だ」
「フギャア」
腕の中でまだ若干暴れようとするが、グルルルと腹の奥からの音も同時に聞こえた。
「なんだ腹が空いてるのか。ふむ。食べるもの」
まあ、確かに逃げてきたのなら腹も減っているかもしれない。
がさごそとポケットを探ると・・・あった。
「猫って、チョコ食べるのかな」
腹が空いた時用にと忍ばせておいたチョコレートを一つ取り出し、パッケージから取り出すと猫の口に当てた。
しかし、猫は食べない。
ぺろりと舐めるが、かじることはなかった。
「固いのか?」
仕方ないので、持っていたそれを口に放り入れて適当に舌の上で転がす。
適度に溶けてきたところで、もう一度、猫に唇を寄せた。
「ふが(ほれ)」
唇の端からのぞいたチョコレート。適度に溶けて柔らかくなったソレ。
まあこれで食べなかったら自分で食べようかなと思っていたら、猫がペロリと舌をのばして食べた。
「おお、食べた」
猫は古都が加えていたソレをみるみるうちに食べて、「なぁーご」と鳴いた。
満足したのだろう。
最初食べなかったのは警戒していたのかもしれない。
おまけに踏ん張っていた手足からも力が抜けた。
手を伸ばしてのど元をなでてやれば、ゴロゴロとのどを鳴らして古都の胸に顔を埋めた。
「可愛ヤツ」
古都は満足げに抱きしめたのだった。
「猫しか出てこなかったけれど、歴とした異世界ファンタジーです」
「ほぉぉ」
パシリ(ムチがしなる音)
「俺様はいつ登場するのかな」
・・・・・・・・・
「さあ?」