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猫姫  作者: 四季道理
14/47

サド王子 2



 パタン。


 足音なし。

 かすかに布団が沈む感じ。


「起きてるかー」(ささやき声)


 そして。


「起きてないと、刺すぞー」(ささやき声)


 カチャ。


 鞘から剣を抜く音である。


「殺すのは勘弁してください」


 ルディは誰が来たのかは気づいていたが、どうせろくでもない案件であることは決まっているので眠ったふりをするつもりだった。


 剣が自分の頭上に向けられていると気づくまでは。


 王子は刺すと言ったら刺す。

 刺すと言わなくても刺すが、言うだけマシだ。


 目を開けて、上を見上げれば、ランタンを手にした王子が頭上にいた。

 ろうそくではないだけマシかもしれない。

 ルディは、王子の性癖に応えられる気は全くなかった。

 その他大勢の意見に同じく、ムチもろうそくも木馬とやらも勘弁である。


「寝ぼけてないで早く起きろ」


 しかし、王子・・・気配もなく近寄ってきて間者みたいな・・・。

 変なことばかり身につけて。


「どうされたんですか。こんな深夜に」


「しっ」


 人差し指をたてて、扉の向こうの気配を探る。

 近づく足音と王子のいつにない鋭い視線に思わず危機を覚える。


 こんな夜中に攻めてくるとは考えにくいが、間者ならあり得るか・・・。


「まさか・・・」


 お互いに交わす鋭い視線に思わず息を飲み込む。

 王子がそっと首を縦に振る。


 ルディは枕元に置いた剣に目をやり、そっと手を伸ばす。

 その束に手をかけて、奇襲に備えようとかけ布団に手をかけた。


「どこのて」きですか。


「夜の見回りヤツに気づかれるだろう」 



 ・。



 ・・。



 ・・・敵じゃないし。



 ・・・なんで自分の城で・・・よりにもよって自分の家来の気配を探ってるんですか・・・貴方は・・・。



 ふぅ、と王子が肩の力を抜く。

「もう危険は去ったぞ」


 危険ではない。

 身を守ってくれる家来である。


「今日はレオンの番だからな。ヤツは耳だけはいいんだ」


 もう何も言うまい。


「で、今度は何の遊びを思いつかれたのですか」


 自分の言葉を半端に遮られたのが面白かったのか、王子が笑った。

 白い歯がきらり。


 多くの女性がだまされ・・・もとい、恋に落ちる瞬間である。


「ふぅん。察しが良くなったな。ルディ。俺様の教育のたまものかな」


 ・・・。


「明日も早いので寝てもいいですか?」

 

「流れ者の傭兵がさ、今日の夜あたり、闇市を開くと言ってたんだ」


 ルディの声は完全に無視である。


 ・・・。


 しかし、闇市とは。

 いわゆる“何でも”市場である。

 闇の武器でも危険な魔物でも呪うような魔石でも金さえあれば手に入る。



 そう・・・たとえ人でも・・・。



 しかし。


「完全に不法じゃないですか」


 そこに、一国の王子が・・・行くか?


 そして・・・明らかに楽しみにしている!?


 その無駄にさわやかな笑顔を止めてくれ。


「市井に降りて、国民の情勢を知るのも王子の仕事だってルディも言っていただろう」


 都合いいように人の話を解釈して話をごまかそうとするのは、だましの手口である。


「それは通常の生活の話です」


 ぴしゃりと言い返すが、スルーされてしまう。


「さあ、さっさと準備をしろ。レオンが戻ってくる前に抜けないとまずい」


 わくわくとした表情の王子。

 

「さわやかに見えるのに、見えるのに」


 ぶつぶつとつぶやきながら着替える。

 といっても、夜着の上に簡単な上着を羽織って、ベルトを締めるだけだが。


 枕の傍らにあった剣を取り、腰にさす。



「さあ、行くぞ!」



 まるで英雄のように堂々とした態度。


 その姿が、国を滅ぼそうとする魔王の姿と重なり、反射的に腰の剣を抜きそうになったことは秘密にしておこう。



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