捕まって縛られました 6
「いやーん」
今度もロープである。ロープと言えばこの台詞である。
手首をしっかりと結わえられ、その結び目は左右に伸びている。
両足もしっかりと固定されていて動けない。
動いたら周りの人にも当たってしまうので、あまり動かせない。
前回と違うのはネネがいないということ。
ワタシの声に帰ってきたのは、いくつかの虚ろな目線だけだった。
誰もが、長い馬車での旅に疲弊しきっているのだろう。
すまん、ネネ。
心の中で離れてしまったネネを思う。
一人でふらふらしていたワタシが悪いのだ。
いつまでも帰らないワタシをさぞ心配しているだろう。
だが、ネネがいなくてよかったとも思う。
これはタチの悪そうな集団だから・・・ネネのような可愛い男の子がいたら、きっと稚児趣味の親父に売られてしまう。
それだけは避けれて良かった。
金の目の古都に、自らを稚児趣味と評されているとは知らない古都は、きわめてまじめにそう思っていた。
ガタゴトガタゴトと動いていた動きがやがて緩慢になり、止まった。
ざくっと荷台から地面に降りる足音がして、バサッと薄汚いテントがめくりあげられた
ひげもじゃの人相などわからない小男だった。
名前は知らない。
頭にかぶっている緑色の三角帽子が、白雪姫に出てくるこびとのようだった。
あちらが良いこびとなら、こちらは悪いこびとだが。
人が寝ている間に、手足を縛って、誘拐する。
だからだろうか。
ここにいるのは決して貧しそうな者ばかりではない。
馬車に押し込められているのは、10人程度だが、若い女の子もいるし、40代の女性もいる。
服装も攫われてきたときのままなのだろう。
かなり身なりの良い男性もいた。
だが一様に深く絶望したような瞳をしていた。
逃げれば、殺されると分かっていたためだ。
ワタシが座っているところに、一人若い男性がいたのだと聞いた。
ワタシが捕まる前の日に逃げて、捕まって・・・そして、皆の前で殺された。
それは口にするのも無残な殺し方だったという。
見せしめ以外の何の理由もない。
それはここにいる人たちの身を、物理的な縄という縛り以上に精神的な枷となって縛っていた。
「おらっ、奴隷ども。明日は競りだからな。しっかりといいご主人様に巡り会えるように願っておけよ。ぐははははっ」
どこをどう切り取っても、完全に悪役のこびとである。
「お前も、いいご主人様に巡り会えるといいなぁ」
笑い終わると、今度はニヤニヤとワタシを見ている。
片方の頬に大きな傷があるので、笑いが余計にゆがんで見える。
吐き気がするほど嫌な笑い方だった。
なんと表現すべきか。
愉悦に浸るというか・・・。
悪いこびとにとって、ワタシという猫娘は大金に見えているのだろう。
そのせいか、ほかの者に比べると少し良い待遇を受けられていた。
ほんの少し・・・。
たとえば、ほかの者に傷つけられないように、猫耳や尻尾を隠すためのマントを着せられたり、手を布で覆われたりとその程度。
布があることでロープが馬車の振動でねじれて手首を傷つけることもない。
ワタシは無言で返した。
悪いこびとは別に誰の返事も待っていなかった。
すぐにバサリと布をおろすと去っていった。
「おかあさん・・・」
去っていく足音を聞きながら、それまで沈黙を保っていた女の子が悲壮な声を漏らした。
もしかすると泣いているのかもしれない。
だが、誰にも泣くのを止めるすべはなかった。
ワタシも・・・泣きたい。