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猫姫  作者: 四季道理
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捕まって縛られました 5



 すーすーとかすかな寝息を立てて古都が眠っている。

 古都の腕が後ろからネネに回されて、抱きしめられたままであった。

 その腕の中で丸くなったネネは目を開けて小さくなってく炎を見つめていた。


 考えているのはただ一つ。


 古都を殺させないためにどうしたら良いのか。


 金の瞳の古都は言葉どおり力と知識を与えてくれたが、どうしたら良いかまでは教えてくれなかった。


「古都」


 寝返りを打ったふりをして古都を向く。

 古都は眠っている。

 

 ファミーアのネネの目には、閉じたまぶたも、桜色の唇も、ほおにかかる髪の毛もしっかりと見えている。

 これらはまだのばせば手の届くところにある。


 だからどうだというのだ。

 ファミーアの時と変わらない。

 何もできない。


「古都」


 どうしたらいいのかな。


 そのとき、古都の閉じていたまぶたが震えた。


「古都古都とうるさいわ。静かに寝かせぬか。れ者め」


 ネネの動きがぴくりと止まった。

 まぶたがゆっくりと開いていく。

 その下は、その声音にふさわしく・・・金色をしていた。


 金の目の古都は腕の中にいるネネを見て、かすかに唇の端をあげた。


「この娘は稚児趣味か」


 言われた言葉が理解できずネネはただ固まっていた。

 あまりにも圧倒的な力を目の前にすると、獣はただうなだれるだけ。ネネがまさにその状態であった。

 古都があっさりとネネを腕の中から離した。

 そして体を起こす。


「ここはどこか」


「村の中」


 だが決して良い待遇とは言えない小屋の有様に古都が肩をかるくすくめた。


「ふん。この娘はまた面倒ごとに巻き込まれておるのか。本当に事欠かぬのう」


「病が、古都のせいにされて」


「説明など妾には不要」


 ちらりとネネを見て、虚空を見上げる古都。


「簡単なことであろう。病を治せば良いのじゃ」


「だけど古都には」


「古都にはまだ治せぬ。だが、おぬしなら治せる」


 自分が治せる、と聞いてネネには方法が思いつかなかった。


「吸えば良い。病だけ。しかし」


 意地悪く古都が嗤った。


「吸えば病は己のものとなるよ」


「かまわない」

 

 ネネは返答をためらわなかった。

 このまま病が治らなければ、古都が殺されるのだ。


「おぬしをしばる古都がいなくなれば、おぬしは解放されるだけじゃ。元の姿に戻って」


「子供のところに行く」


 ネネにはもう古都の言葉は届いていなかった。


 窓から差し込む明かりを見つめて、ふと体をふるわせた。

 光の中で変化していく・・・。

 やがて、元のファミーアの姿にもどった。「なぁぉう」

 古都が猫と評したそのままに、四肢で立ち、漆黒に輝く柔らかな肢体をいっぱいにのばした。

 そして、身軽に跳ねて、窓の格子をするりと抜けていった。




 闇色のその姿は言葉のごとく暗闇に紛れ、誰にも見とがめられることはなかった。




 次の日、目覚めた古都を待っていたのは、なぜか病に罹ったネネの姿と、一転して病状が良くなったという子供たちの話だった。


 よく見れば、子供たちの首筋には小さな歯形があったのだが、運良く誰にも見とがめられることはなかった。


 村人たちは、病に罹ったネネから村人に再びうつるのを恐れ、だが、無碍に追い出すことも出来ず、子供たちには不要となった小屋に二人を押し込めた。



「ネネ・・・どこで生ものを食べたのだ」


 猫手なので、コップを持つのも一苦労だが、それ以上に動揺が古都の胸の内に広がり、古都の手は震えていた。

 ネネの背中に手を回しおこしてやりながら、その口元にコップを寄せる。

 ネネは素直に水を飲んでいく。


「ないしょ」


 吐くほど気持ちが悪いはずなのに。


「あれほど、生ものはだめだと言ったではないか」


 ワタシが助かったとか・・・そんなことよりも、なぜネネが。

 食べ物には十分注意していたはずなのに。


「うん。もうしない」


 胸の奥が痛かった。それは形容しがたい痛みで、古都は眉根を寄せたままそっとネネを抱き寄せた。


「早くよくなるのだ。ネネ」


 ネネが布の隙間から手を伸ばしてきて、古都の手に触れる。

 手も冷たく、顔色は決して良くない。


「ほかのものと同じようになんて・・・万が一にもあったらワタシは」


「大丈夫だよ。万が一なんてない」


「そんなこと誰がわかる」


 ネネが小さく笑ったのが分かった。


「とにかく休め。休むのが一番の薬だ」


「はい」


 古都はそっとネネの額に触れて、また手を離した。立ち上がった。湯を沸かしに行くのだろう。


「・・・ね、古都。お願いがあるんだ」


「なんだ」


「そばにいたいんだ・・・それだけだから・・・誰かに預けるとか・・・そんなこと」


 その縋るようなまなざしをどうして振り切ることができるのだろうか。


「わかった。わかったから。ネネ・・・もう預けるとか言わないから・・・体を治すことだけ考えて、今は眠るのだ」


「良かった」


 ほうと息を吐いて、ネネは幸せそうに笑った。


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