姉
私には、真白という姉がいる。
まるで白雪姫のように白く美しい赤ん坊だったから、そう名付けたらしい。 年は2つ離れている。
私は自分の名前が好きではない。
両親は、かねてより妹が生まれたら姉と対になる名前をつけたいと思っていたらしい。
肌が薄暗いから、真黒。
子供の頃はよく名前でからかわれた。
マグロ、まっくろ、ほくろ。
姉が突出して肌が白く美しいのであって、私が特別に黒いわけでも、不格好なわけでもないと気がついたのはずっと後になってからだった。
むしろ他の子どもたちよりも色白だったのに、姉の横に並ぶと私達はオセロのようだった。
私だけ、ずっと裏を向いているオセロ。
姉はいつも私に優しかった。
私には好きな人が居た。
告白をしたけど、姉が好きだからと振られた。
その後姉に告白をしたらしい。
姉は了承した。
姉と好きな人が付き合い始めて1週間後、姉が言った。
「くろちゃんに、あげるね」
「あげる、あげるって何を?」
「✕✕さん、好きでしょ」
屈託なく笑う美人の姉。姉の横から顔を出した✕✕さんは、納得済みという顔でこちらを見ていた。
姉に悪意は無い。無いから、怖い。
姉の底なしの美しさが、無償の愛が、怖い。
姉の白い肌が、黒いなめらかな髪が、異形の物に見えてくる。
満たされている彼女は、私に何かを与えることに少しの迷いもない。
眼の前がチカチカして、転げるように家から飛び出した。
その後の事はよく覚えていない。
次の日、姉は昨日のことを忘れたみたいに変わらず優しかった。コーヒーにミルク、角砂糖を3つ入れて私にそっと手渡した。ぐるぐると白い渦が巻いてるのを見てため息を付いた。