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第4話 加速する悪口と与えられない選択肢

 あぁ、これは知ってる天井だわ。



 俺が目を覚まして最初に目に入ったのは、過去に見たことがある天井だった。

 天井っていうか、天蓋というか。


 お姫様用のベッドって感じのひらひらしたレースがあしらわれたピンク系統の天蓋。

 1度だけ連れてこられたことがある。御霊知夏(みたまちなつ)の部屋だ。


「あ、おはよぉ理真(りま)。気分はどう?」



 目覚めたばかりだと言うのに、耳を打つ間延びした不快な声に一気に意識が覚醒し、ストレスマッハ。

 全身に蕁麻疹がでてるのがわかる。


「ちっ」



 話すのも嫌なので、舌打ちだけ返す。


 俺の最後の記憶は朝のホームルーム前に御霊凛火恋(みたまりかこ)と喋ってたやつだ。


 たしか......兄貴の悪口言ったんだっけ。そんでアイツはなんか、調教がどうたらって言ってたな。そのあと急に意識を失って。

 それで今俺は御霊知夏の部屋で目覚めた。全身に力が入らない。かろうじて首の角度を変えるのと声が出せるくらいか。


 麻酔か筋弛緩剤でも打たれたかな。


 ということは......まぁそういうことか。


「やっぱりお前ら家族は揃ってイカレてやがる」


「もぉ、そんなふうに生まれたての猫ちゃんみたいに強がって威嚇しないの〜。わかってるよぉ、調子にのってうちの家族の悪口言い過ぎちゃって怒られないか不安なんでちゅよね〜。だからムリに強がっちゃうんでちゅよね〜。大丈夫大丈夫、私は全然怒ってないからね〜。おーよしよし。可愛いでちゅね〜」


「シね」


「ふふふ、シンプルな悪口だ。小学生みたいで可愛い♡」



 相も変わらず無敵すぎる。


「今朝もプロポーズしてくれたばっかで興奮しちゃってたんだよね。私も嬉しかったし、わかるよ♡」


「してねぇし、頼むからシんでくれ」


「だけどね〜、凛火恋ちゃんは結構怒ってるみたいなんだよね〜。パパと莉牙くんの悪口を、凛火恋ちゃんの前で言ったのはよくなかったねぇ」


「知らねぇよ」


「凛火恋ちゃん、家族のこと、特にパパと莉牙くんのことすごーく愛してるからね〜。姉妹のことならなんともないのに、2人の悪口になった途端に豹変するんだよね」



 ブラコンだけじゃなくファザコンも拗らせてやがったのか。

 まともそうに見えてた御霊凛火恋も、やっぱりイカレ一家の一員だったってわけか。どうでもいいけど。


「それでねぇ、凛火恋ちゃんったら、理真がパパの悪口言ったことをママたちに告げ口しちゃってさぁ。もうママたちカンカンなの。パパは『この街に住んでて僕の悪口が言えるなんて漢らしくて大したものじゃないか!』って楽しそうにしてたけどね」


「あっそ」



 知らねぇよマジで。なんかもういろいろどうでもいいし。

 コロすんならコロせよ。どうせ俺がいなくなって悲しむ家族ももういねぇんだから。いっそ、父さん母さんと姉ちゃんのもとにいけるならその方がいいかもしれない。


「それでねぇ、凛火恋ちゃんもママたちも、今のままじゃ理真をお婿さんとして迎え入れるわけにはいかない! って言い出しちゃってさぁ。ちょっとおイタが過ぎただけなのに酷いよね?」



 ............お?

 まさかまさか、予想もしてなかったけど、これはまさか御霊知夏から距離を取るチャンスなのか?


「理真に選択肢をあげるから、好きな方を選べって言うんだよ」


「なんだよその選択肢って」






「うん、意識を保ったまま剥製になるか、御霊家の一員としての自覚を持つようになるか、選びなさいだって」


「はぁ?」



 なんだよ『剥製になる』ってなんだよ。意味わかんねぇから。こえぇよ。

 ............いや、そういえば御霊家といえば、剥製はともかく、そういうの当たり前にやっててもおかしくねぇか。あの親父を中心にしてる一家なんだもんな。


「ね、おかしいよね、そんなの」


「まぁ、おかしい、な」



 頭がな。


「だから私、すぐに言い返したんだよ。理真は最初からうちの一家の一員になりたい気持ちでいっぱいだけどツンデレさんだから素直になれないだけなんだよって。だから本人に選ばせても素直になれないよってね」


「バカが」


「だから、私が代わりに『うちの一員になりたいです』って方に回答しておいたよ!」



 バカが。


「マジキチ一家の一員になるくらいなら、剥製にされたほうがまだマシってもんだ」


「んもぉ、そういうお口の悪さがママたちを怒らせてるんだよぉ。ツンデレさんもいいけど、そろそろデレデレさんになっていいんだよ? お姉ちゃんのおっぱいのむ?」


「黙れ。乳首噛みちぎんぞ」



 相変わらず俺の拒絶の意思は伝わってないのか、ニヤニヤと気色悪い笑みを浮かべてやがる。

 そんで、胸の前あたりに両手の握りこぶしを置いて頬を膨らませるっていうあざとい仕草をしながらプリプリと怒って言う。


「もぅ。あんまり強情はってると、いくら私でもいい加減怒ちゃうよ?」


「ニヤけるな、カワイ子ぶるな」


「え? 可愛いって?」



 自分に都合のいい部分だけ勝手な解釈で聞き取ったことにしてくるヤバ女。


 マジキチ女のくせに、カワイコぶってんじゃねぇよ。

 あざとい仕草にもイラついて仕方がない。ムカつき過ぎて鳥肌立ってきた。


 暖簾に腕押し、ヌカに釘、豆腐にカスガイ、馬耳東風とはまさにこのこと。何を言ってもびくともしない。

 バカだから仕方ないんだろうな。


「可哀想な脳ミソしてやがんなぁ!」















「こらこら、うちの娘にあんまり暴言はいちゃだめじゃないか」



 声の方を向くと、部屋のドアを開けて男性が入室してきていた。

 御霊知火牙(みたまちかげ)氏だった。

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