「アイツらとの一日」
現在、土曜日。
布団で、どうしようか悩んでる男がいる。そう、俺だ。
まぁ、土曜と言ってもさっき日をまたいだばっかりだし、他の人から見れば何を悩んでいるんだと思われることかもしれないが。
【今週土曜日、ゲーセンに来い。以上。】
俺は手紙に書かれた文字を眺める。
だが、手紙の内容が変わることはない。
まぁ、そうだよな。
俺は布団の上で仰向けになる。
『いいか、こうなったら絶対に下手をしないようにしろ。特に椎崎の前では。』
松本いわく、寿々木の前ではともかく椎崎の前でだけはバカをするな、だそうだ。
だが、だがだ。
もしかしたら、もしかすれば、ゲーセンに行かなくてもなんとかなる可能性がある。しかし、その可能性は極めて低い。
「はぁー」
仕方ない、ちゃんとゲーセンに行くか……
それに、腕がなまってるといけないしな。
そう決めた途端ふいに眠くなり、俺は部屋の電気を消し、寝ることにした。
朝、11時。
結局、集合時間も分からず朝の9時からゲーセンの駐輪場で自転車を停め、待っていた俺はやっと来たかのかと、安堵していた。
椎崎が来たのだ。寿々木を連れて。
補足をするなら、アイツらは歩きで来た。
ちなみに、俺らで言うゲーセンはだいたいここ! というあてがあるのでなんとなくわかった。
てか、この付近ここのゲーセンしかないってレベルでちゃんとしたゲーセンがない。
おい、えらいさん、もっと娯楽施設を増やせ。
「早いではないか! いい心がけだぞ!」
椎崎が俺の方に歩いてくる。
「早く来すぎて後悔してたくらいだよ」
「おはようございます、山田さん」
「おう、おはよ」
いつもなら土曜と日曜は、おはようよりこんにちはの時間に起きるのに……
「よし! 皆揃ったな、では行くぞ!」
「はっ、はいっ」
その掛け声とともに、俺達はわらわらとゲーセンに入っていく。
と、言いたいところだったがちょっと待ったッ!!
「なぁ、椎崎。お前その格好で行くのか?」
「当然だ、だからこの格好で来たのだ。何か不満か?」
本当ですか? それ。嘘じゃないんすか?
椎崎の格好、それはまぁすごいものだった。
手袋をはめて、包帯巻いて……うっ、なんか俺にもダメージが……
とりあえず寿々木はいい。アイツは普通だ。だからアイツはいいんだが……
俺は椎崎を改めて見る。
う〜ん、前回は色々焦っていたから分からなかったが、椎崎って意外とかわいいんだな。
だから、まぁ……いっか!
俺は楽観的に考えることにした!
「いや不満はない。とっとと行こう」
なんか今まで悩んでたのがバカらしく思えてきたぞ。
よし、今日は徹底的に遊び倒そう!
「速く行こうぜ、俺、今日はすげー遊びたい」
椎崎と寿々木は一瞬キョトンとして
「そうだな! 今日は私が納得いくまで遊びまくるぞ!」
そう言って椎崎は入口に走っていく。
「俺らも行こう」
俺は未だキョトンとしている寿々木に話しかける。
「えっ、あっ、はい、い……行きましょう」
そして、俺ら三人は朝っぱら(俺の感覚では)からゲーセンで遊ぶことが決定したのだった。
「なぁ、椎崎。お前もう諦めたら?」
「いや、ダメだ。我が魔力を高めるには、あの魔道具が必要なのだ」
「………」
もしかすると察しのいい人は気づいているかもしれない。
そう我々は今、UFOキャッチャーなる闇のゲームをプレイしている。
まぁ、プレイしているのは我々ではなく椎崎のみだが……
それでだ、その椎崎がUFOキャッチャーで取ろうとしているのは「魔力を高めるツボ」という、なんともワケの分からない景品である。
景品の設置状況の仕方はなんとも簡単で、四本の棒の上に、箱に入ったあのよく分からんツボを置いている。
ただそれだけだ。
だが、椎崎にとっては非常に難しいのであろう。
あと少しで、箱が棒の間に入って落ちるというところで何度もミスしている。
というか、何も状況が変わっていない。
ただ、アームで持ち上げて、数cmしたところで離してしまっているだけだ。
てか、どーしよ。今更、俺これ取れるぞ、なんて言えない。
こんなことになるなら、アホみたいな頻度でゲーセンに通うんじゃなかった。
あー、どーしよっかなー。
なんか、見て見ぬふりしてるみたいで悪い気がするし……
かと言って、そろそろゲーセンに行きたいと思ってた俺だが、そんなに財布の中身は余裕があるわけじゃないし……
いや、でもそんなことどうでもいいや。
なにせ、今日の俺はなぜか冷静な判断ができる俺じゃないのだ。
勢い任せでなんとかなる思考の俺だ。
だから、俺は
「椎崎、ちょっとどいて」
「わ、私はどうしても欲しいのだ!」
あー、はいはい。分かってるっての。
俺は数少ない100円玉をコイン投入口に入れ、椎崎にどけと、再度手で合図した。が、
「おー! 私に一回分奢ってくれるのか! いい心構えだぞ山田よ」
なんて言ってボタンを……
「やめろッ!! 押すなッ!」
押す寸前ギリギリで止めさせた。
「あっ、わ、悪い」
ヤバい、椎崎が落ち込み気味になってる!
「いや、俺も勝手に行動して悪かった。まぁ、ちょっとそこで見ててくれ」
上手く誘導して、今度は俺が台の前に立つ。
ミスしなきゃ取れるな。
俺は確信を持ち、ボタンを押し始める。
そして、おそらく手前の棒に乗っている箱の角にギリギリ、左のアームが角の部分をすくうだろう位置に、動かせた。
それで、左のアームが手前の棒に当たらないよう後ろに動かせば……
ガコンッ
取れた。良かった〜、椎崎を喜ばせつつ、腕がなまってない確認が取れた。
と、言っても本当に椎崎が喜んでるか確認が取れていないので……
「ほらよ、椎崎」
俺は取れた「魔力を高めるツボ」を椎崎にあげた。
すると
「わぁ、わぁ…」
目を輝かせて、言葉が出ないでいた。
「あ、あり……いや! 感謝するぞ山田! やはり、お前を連れてきて良かった!」
はいはい。てか、今日の椎崎デレが多くないか?
NEXT GAME!
なんてカッコつけて、続いてやって来たのは音ゲーコーナー。
操作の多いやつとか、家電みたいな形のやつとか、踊るようなやつとか色々ある。
てか俺、音ゲー全般苦手なのだが大丈夫だろうか。
そして、ほとんど空気のような存在感の寿々木は大丈夫だろうか。
「山田! あれをやるぞ! ついてこい!!」
椎崎はゲーム筐体を指差し、すぐさま走っていく。
はしゃぎすぎだろ、アイツ。
てか、俺があんま音ゲーコーナー見ないうちに置いてある筐体変わったか?
俺、あんなでかい筐体初めて見たぞ。
色々見ながら、大量にある筐体の中で椎崎が選んだゲームの所に行く。
さて、どれどれ椎崎の奴は何を選んだんだ?
………。
椎崎の選んだやつは、こりゃまた難しそうなのだった。
ボタンが、下上下上下というような配置で五つ置いてあり、そのボタンの集団の左右には前に動かして操作するようなレバーがあった。
画面は縦長。
あとは筐体に直接荷物置きが付いているだけで、それ以外は、他の筐体と変わっているような印象はない。
おいおい、俺こんなのやったことないぞ。
それに一台しか………
ない…………な。
一台しかないぞ。それにあの台一つで一人プレイっぼいし。
あれ………これワンチャン俺やんなくてもいいくね?
うん、そうだ。きっと、自分のプレイを見ててほしいんだ。
そうだろ? 椎崎
「いいか、山田。まず最初に私がプレイする。その後、次は山田の番だ。」
俺もやるんかい。
てか、普通こういう時って同時に皆でできるやつチョイスするだろ。
じゃあ勝負内容は一体何なんだ?
「それで、勝負内容は?」
「もちろん、スコアを競うぞ!」
そこはミスの数じゃないのか。
じゃなくて
「俺、操作がわからないんだが」
「大丈夫だ、安心しろ。私が教えてやる」
そう言い、椎崎は100円を投入した。
それで、だ。
あらかたの説明を受け、なんとなく操作が分かった俺は今、椎崎のプレイを見ている。
椎崎のやってる難易度はMASTER、分かりやすく言えば一番難しい。
そんで俺がやるのはEXPERT、レベルで言えばMASTERの一個下に位置する難易度。
勝負曲は、かの有名なあの人の代表曲。
よくもまぁ、EXPERTがEXPERTしてない曲を選んでくれたよ。
寿々木に、もっと速くこのことを教われば良かった。
今頃になって、勝負曲の変更をしたいと思っている俺がいる。
てか、長いな。まさか原曲通りに収録されてて、音ゲー用に簡略化されてないのか?
まぁでも、なんとかなるだろ。
俺は、この暇な時間のうちに椎崎に持たされている「魔力を高めるツボ」を持っている寿々木に話しかける。
「なぁ、お前ヒマじゃないのか? 俺から見たらお前、悲しいことにずっと空気みたいだぞ」
そう、コイツずっと俺らの少し後ろにいるだけで、あまり会話に入ってきていないのだ。
「あっ、大丈夫です。私、その……見る専門なので」
こっそりつぶやくようにして、数少ないチャンスだからっつってたの、俺はちゃんと聞こえたぞ。コノヤロー。
「それに………」
寿々木は何か、安心したような表情をして
「あなたのような人の前で、あんなに笑ってる椎崎さん………私、すごく久しぶりに見ました」
………まぁ、なんか別の俺みたいな奴と過去になんかあったんだろうな。
あんなヤバい奴だし。
ん? よく考えればあの言い方って、アイツら同じ中学だったのか?
「なぁ、お前らって同じ中学だったのか?」
「はい、そうです」
「ちなみにどこ中?」
「………私達は、その…」
だが、その時
「どうだ! 山田よ、この私の好成績を、しっかり目に焼き付けろ!」
邪魔が入った。
しゃーない。そっちに行ってやるよ。
それに、どこ中だったのかなんて質問、いつでもできるしな。
「悪い、ちょっと椎崎のとこに行ってくる」
寿々木にそう言って、俺は椎崎のところに行く。
さて、どれどれスコアは………
「……………」
フルコンボって表示されてるな。
…………俺勝てんのか? この勝負。
いや、でも大事なのはスコア。つまり、あまり見る人がいなさそうなあの数字の大きさだ。
えっと、数字は394042。
すごいのか、すごくないのかよく分からん。
とりあえず、あの数字より大きければいいんだな。
勝負をするからには、俺としては負けられない。
「よく目に焼き付けた。椎崎、負けても知らんぞ」
「ふっ、意地を張るでないぞ、山田。貴様の負ける姿は、私の魔眼でもう見えている」
あぁ! そうかい!
なら一層勝つしかないな!
よし、やってやるぞ。見てろ椎崎、この俺の完璧なパフォーマンスを!
「ちきしょー!」
見事に俺はボロ負けした。
なんなんだよ! あの譜面はわかるわけねーだろ!
く、俺の隣で満足そうに頷いてる椎崎がむかつく。
「山田よ、これが私の力だ。貴様ではこの私に勝てない」
「もう一回だ! あの曲はムズすぎた!」
「いいだろう! 私には勝てないことをしっかり分からせてやる!」
現在、帰り道。
俺は、途中まで帰り道が一緒だと発覚したコイツら二人と共に、自転車を手で押しながら帰っている。
結論から言おう。
俺はあの後、一度も勝てなかった。
とにかく、椎崎のプレイヤーとしての実力が凄まじかった。
これは、またゲーセンに行く理由が増えたな。
次は絶対に勝ってやる。覚悟しとけよ、椎崎。
そんなことを考えてる時
「なぁ、山田」
話しかけられた。
「ん? なんだ?」
「お前は今日、楽しかったか?」
考えるまでもない。
「当然だろ」
その言葉を聞いて、椎崎がパアッと顔を明るくし
「そうか! それは良かった!」
上機嫌になって、ルンルンとスキップしながら、俺より前に出て、俺の方を向き
「じゃあ、山田。名残惜しいが今日はここでさらばだ」
あれ、もうさっき話してたアイツらとの分岐点まで着いたのか。
意外と早かったな。
じゃあ………
「な、なぁ山田」
おっと、変化球。
「どうした?」
「お前はまた、私と遊んでくれるか? 変な奴だと思って、私と距離をおいてしまうか?」
……………コイツは、自分に自信が無さすぎた。
正直言って、最初はできるだけ関わりたくないと思っていた。
だが、今は違う。
椎崎は、正直に言ってしまえば頭のおかしい奴だ。
自分に魔力が宿っていると思ってるし、今日知ったが魔眼がなんとか、とか言ってたし。
でも、実際はそんなにヤバい奴じゃない。
俺らが勝手に勘違いしてただけだ。
厨二病の奴は皆が皆、異常で危険ってな。
俺は椎崎のおかげで、関わることの大切さを身にしみて実感した。
だから………
「また、遊んでやるに決まってるだろ」
その瞬間、椎崎は今日一番のとびっきりの笑顔で
「ああ! 約束だぞ!」
最後に、またなと言葉を残して、椎崎は走り去って行った。
「あっ、まっ、待って下さい椎崎! 待って、おいてかないで〜」
寿々木は最後の最後で雰囲気をぶち壊して、椎崎と帰っていった。
…………俺も帰ろ。遊びすぎて今日は疲れた。
こうして、恐怖の一日になると思っていた日は、最高の一日になって幕を閉じた。
この回は絶対におもろい。そう確信を持っています。
もし、この作品がおもろいと思ったら、たくさんの人にオススメしてあげて! 以上、後書きでした。