「妹っていいよな」
「あ〜、だりぃ〜」
俺はそんな事を呟きながら、買い物袋を片手にぶら下げて自宅への帰路を歩いている。
季節は夏。しかもよりによって、一日のうち最も気温が高くなる2時だ。
暑くてたまらん。このままいったい日本はどうなるんだか……まぁ、そのへんは詳しい奴らに任せよう。俺が出る幕じゃない。
お、そんな事考えてるうちに我が家に着いたぞ。
さてさて、それでは癒やされに行きますか。
俺は、鍵穴に鍵を入れ90度ひねり、ガチャリと音がしたのを確認して、ドアを開ける。
「ただいまー」
そう呟いて、家の中に入っていく。
すると突然、ドタドタドタと急いで走ってくる足音が聞こえた。
お、来たな。
そしてそれから、五秒としないうちに廊下の角から、ドタドタと走ってくる一人の人物が現れた。
身長は135Cmほど、まだまだ心も体も未成熟な俺のかわいい妹である。
ちなみにツインテール。俺が頼んで以来、なんでか知らんがずっとツインテールのままだ。
気に入ったんかな?
「お兄ちゃーん!」
そのまま、妹が俺に抱きついてくる。
「おかえり!」
満面の笑みで、しかも上目遣いで。
最高だな、癒やされる。もうずっとこのままがいい………そういうわけにもいかんか。
そういや、まだちゃんとは言ってなかったな。
「ただいま」
「うん! おかえり!」
「そういえば、何買って来たの?」
「ああ、これか。これはな………」
なんていう理想の世界を、俺は前の席に座る松本に話してやった。ちなみにコイツの席は本来、俺の右隣であって、決して前の席でない。
「いいな、そういうのも」
「だろ? お前なら分かると思ってたんだ!」
つい俺は、興奮して声を荒らげてしまう。
気を付けないとな。そうじゃないと、俺みたいに周りからの視線が集中する。
てかオイ! あいつ哀れな者を見るような目で俺を見てるぞ。
………悪かった、そんな目で見ないでくれ。頼むから!
「でもやっぱ、こういうのもありだと思うんだ」
そして唐突に松本の語りが始まる。
さて、ようやく部活も終わり、後は帰るだけかー。
……やはり部活で、ギリギリ色付けまで、いけなかったのは正直言って悔しい。次は塗ってやるからな、覚悟しとけ。
………なんか寂しいわ、何考えてんだ俺。
そんな脳内会話をしている間に、気づけば俺は家の前にいた。
ドアノブに手を伸ばし90度ひねる。
「今、かえ……」
「遅い!」
家に入った瞬間、ただいまの挨拶も出来ずに、妹の声が玄関に響いた。
やばい、これはお怒りモードだ。さすがに8時に帰るのは遅すぎたか。
なんとか上手く怒りをしずめなければ……
「えーとだな…」
だが、いい言い訳が思いつかない。
部活って言えば大丈夫だろって? 俺は前に部活って言って、アート部がこんなに遅くなるわけがない! って言われてるんだ。
………よし、なんか言われる前に謝罪しとこう。そうすれば、きっとなんとかなるはずだ。
「遅くなりました!」
俺は全力で謝る。だが今気づいた、これ謝罪じゃないな。
「言われなくても分かるわよ、それで、理由は?」
「えーと……部活」
俺は正直に答えた。
「はぁ、だと思った。まぁ、いいわ。上がって。ご飯にしましょう」
どうやら妹は怒っていなかったようだ。やったぜ。
でも、妹のあの言い方、まさかあいつ、まだ飯食ってないのか? いつもなら7時には食ってるのに……
俺は靴を脱ぎ、妹を追いかける。
「なぁ! まさか飯……」
すると、妹は顔を真っ赤にして俺の方に振り向き
「べっ、別にお兄ちゃんのために待ってたわけじゃないから!」
そう言って、リビングに走り去ってしまった。
………そう、きたか。
俺は妹がいる喜びを知った。
「どうだ!」
良かった。だが、少し考えて気づいたがここは教室だ。さすがに、ここで愛をこれ以上爆発させるわけにはいかん。また、あーなるのはゴメンだ。
だから、俺は
「まぁ、色々面白かったよ」
俺は努めて優しく言った。
妹への愛は伝わった。ああ、伝わった。
「なぁ! 俺なんかおかしいこと言ってたか!?」
「いーや、なんも」
「そうか、良かった」
どうやら、会話の失敗パターンを引いてしまったらしい。
なんてこった。色々ミスった。
「そういえば、こういうパターンはどうだ?」
松本が話し始めようとする、だが…
「松本、そこ退いて」
落ち着いた女声が、俺たち二人の耳に入る。
「えっ、ああ、悪い、借りてたぞ」
松本が、そう言って席を立ち、本来の席に戻る。
ん? そんなことより、松本に話し掛けた女性は誰かって?
アイツは、山口。何を考えてるのか分からん頭のおかしいやべー奴。
山口はちょこんと席に座り、俺のほうを向いてきた。
「妹はどんなのが好き?」
…………コイツ、いつから俺らの話を盗み聞きしてたんだ。
いや、被害妄想が過ぎるか。
とりあえず、教えてやろう。そうじゃなきゃ、後がダルい。
「そうだな、まず前提として……」
俺が話し始めた瞬間、タイミング悪くチャイムが鳴り、珍しく時間通りに教師が教室に入ってきた。
「ちっ、運が悪い」
そう言って、山口は前を向いた。
俺はと言うと………
「終わった」
「何がだ?」
隣から松本が話し掛けてくる。
「俺、課題終わってねー」
「へっ、ざまぁねぇぜ」
うわっ、隣から終わった課題を見せびらかしてくる奴がいる。
ちきしょう、覚えてろよ。
俺は、もちろんあの後、教師に怒られました。
ここから主人公の物語が始まります。きっと今後おもろくなる! …………はず