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霊凍庫  作者: 弐鈴
野生を忘れた街から出て
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旅人


 食事を終えて、リンは代表のところに行くと言っていた。折角作ってもらった食事はほとんど食べられなかった。孤独を感じた。

 「あなたがSさんですか?」

 声をかけられた。背の低い子どもだった。

 「はじめまして。キール代表からあなたを案内するよう言われました。フルスといいます。僕についてきてください」

 そう言って俺を案内してくれた。さっきまでいた食堂、中央の広場、集会所、治療所、倉庫、農場、宿舎などを見て回った。

 「いくつか空室があるので、その部屋を使ってください。里では皆で仕事を分担しています。Sさんの役割もそのうち決まると思います。決まり次第伝えますね」

 部屋の中にはベッドと机が一つ。簡素な部屋だった。フルスはかなり丁寧に説明してくれていた気がするが、ほとんど覚えていない。第一、里に入って悲しみ、動揺、孤独と心がせわしなく動いているせいか、誰も信用できなかった。メモの言葉だけが頭の中を支配している。あそこに俺の親があるのか。


 夜になってから、一人で南の塚に向かう。ラヴァには一人で出るなと言われたが、一人で行くことにした。もう誰も信用していなかった。


 夜番が数人立っていた。見つかるわけにはいかない。素早く駆け抜け、柵の前までやって来た。先に見えるのは草原。その草原をぐんぐん進むと、土が盛り上がった部分を見つけた。ここが南の塚だろう。

 「やっと、着いた……南の…塚……」

 安心が心に溢れた。もう怯える必要はないという安心。塚の上を探して歩いた。地面にはめ込まれた石に文字が彫られている。ところどころ掠れているが、

      【全ての死は平等である】

という一節は読めた。…………。これだけ? この塚には文字以外何もない。メモを見ても間違いはない。裏に同じ言葉が書いてある。この胸に残るモヤモヤはどうすればいい? 母とは? 父とは? 俺はため息をついた。むしゃくしゃして叫んだ。

 「クソッ!」

 誰かがこれを見ている。

 「S?」

 リンだった。一瞬俺は恐怖した。同じ人間という種類だと思ってなかったから。でも、その直後、全て吐き出してしまいたくて、俺は話した。都市ではヒトは工場で生まれるということ。ガーネットから聞いたこと。確認のためにここに来たこと。ここには何もなかったこと。

 「そうだったんだ。じゃあお昼は悪いこと聞いちゃったかもね」

 リンはフルスから聞いて来たという。俺の様子がおかしかったと。

 「ここは冥界につながるお墓なの。"捕食者"や"暗殺者"、その他の"消費者"なんかに襲われた人は完全な死体が残らないからここの土に撒くのだけど。私の大切な人たちもここにいる」

 俺の目を見てリンは言った。月の光で青く見えた。

 「私たちは冥界の王、デシア様を信仰しているの。Sが復活できたのもこの信仰の派生のおかげなんだよ。伝承では、デシア様が生命を生み出しているの。だからみんなデシア様から生まれたことになるね」

 気を遣って励まそうとしているのだろうが、俺は冷たく言った。

 「それが何だ。結局何になる。この胸のモヤは消えないじゃないか。工場と人、どっちが正解なんだよ……俺の家族ってなんだよ……」

 リンは少し驚いたようで、それから下を向いて、笑顔を見せた。

 「この話に意味はないんだけれど、死んだらみんな同じ場所に行く。どれだけ嫌いな奴でも、優しい人でも。だから、私にはあなたが悩む理由が分からない。生きているうちは人なんて違うのが当たり前なんじゃないかな」

 「…………」

 「カールも死んじゃったけど、Sはカールの産まれなんて気にして無かったでしょ? どっちが正解とかじゃなくて、道が違うだけだと思う。最後は死、つまり今は冥界に行くまでの旅行みたいなものなんだから」

 「…………」

 俺はどこか腑に落ちたのか、静かに笑った。

 「へへ、ちょっと元気になってくれて良かった! そうだ、ここには二人で来たことにしてね! 代表に怒られちゃうから。理由はこれを探しに来たってことで!」

 リンは種子の入った袋を取り出した。俺たちは里に戻った。

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