食欲
俺は立ち上がった心臓の音が聞こえる。血を熱く、勢いよく全身に循環させる。人が人を生み出す? 訳が分からない。動揺する俺を傍観した後、ガーネットは赤い目を閉じた。嘘を言って愉悦に浸るような様子ではない。
「驚いたようだな。だが、重要なことでない。事実が変わるわけではない故」
俺は席を立とうとした。本能的に気持ち悪い。人がどうやって人を作るんだ? そんなの不完全だ。吐きそうだ。
「座れ。竜の子よ」
そう言われて、俺は立てなくなった。椅子の横で倒れた。筋肉が萎縮しているのか、力が入らない。
「此処の人間は都市の人間と違い、人から生まれてきた。だが、此処で孤独を感じる必要はない。大切なのはお前が事実を受け止め、生きてゆくことだ。ただ進むことが正解だ」
ガーネットは何かを置いて立ち上がった。そのまま部屋から出ていく。
「どうしても受け入れ難ければ南の塚に行け。そこでお前たちの"親"というものを確認するといい」
ガーネットが出ていった直後、俺は下を見つめていた。グルグルと血が廻る。やっとのことで立ち上がると、机の上にメモが置かれていた。
*****
南に塚。死は巡る。故に平等。故に命。巡りを止めれば皆動くことはできない。凍ってしまう。
*****
広場に出た所で、リンに昼食に誘われた。気分が悪い。でも、リンは元気だった。もう前向きになれるのが恐ろしく感じた。やっぱり、ここの人は俺とは違う……?
「どうだった? 里のこと、少しは分かった?」
「あ、うん。」
素っ気ない返事しかできなかった。
「リンは"母"って知ってる?」
何気なさそうに尋ねた。目が見開いていないか心配だ。
「うん! 知ってるよ! お母さんはね~とっても素敵な人だった! お姉さまに術を教える様子を見てたんだけど、とっても厳しいの! なのに普段は優しくて、お姉さまも私も大好きだった!」
「え、へえー。」
「Sのお母さんはどんな人だったの?」
突然の質問に息が止まる。
「俺の……"母"は……」
思い浮かぶのは鋭利な機械が並ぶ想像だった。人間は工場から出てくる。機械が母なのだとすれば俺は母を知らない。ガーネットの言うことが本当なら、"母"とは? "父"とは? "家族"とは? 俺にとってどういう存在なんだ。頭の中がいっぱいになっていく。
「お待たせ! 濃口ミートスープだぞ! ギムの実に塗って食べるのがおすすめだ!」
湯気の立っているスープと果実が目の前に置かれた。
「あ、ありがとう」
話題を切るのにいいタイミングだった。
「ブラト、ナイフがないよ!」
「あ~忘れてた。取ってくる。」
リンの言葉に、料理担当のブラトは台所に戻った。
「S、大丈夫? 顔が怖いよ。慣れないことも多いだろうし、無理しないでね?」
リンは本心から言っているはず……だ。頭の中では分かっているのだが、俺は信用できなかった。
「う、う、うん、だっ大丈夫。いただきます」
俺は果実に手を出した。なかなか硬くて噛みちぎれない。動揺しているのをばらしたくない。
「それ、切って食べたほうがいいよ」
リンは心配そうにナイフを渡してくれた。まっすぐな瞳でこちらを見つめている。俺はそっと果物を置いた。
「どうも」




