赤い目
次の日、俺は里の代表という男に呼ばれた。歳をとった男性だった。
「はじめまして。私はラヴァ・キール。君の名前は何という?」
「Sといいます」
「そうか……」
そう言ってラヴァは椅子に座る。
「S君、君も座ってくれ」
そう言われ、俺も椅子に座った。
「昨日は悲しい、悲しいことがあった。カール・ベルグ。里で一番の槍使いだった。技術だけじゃなく、他人への優しさに溢れていた。それ故、皆に尊敬されていた。……彼を襲ったのは我々が"捕食者"と呼ぶ存在だ。何百年も前から、生きているのか死んでいるのか、それすら分からない。分かっているのは里の周囲に頻繁に現れるということだけだ。奴らによる被害は昔から変わらない。いつの間にか誰か消える。見えるところでも、見えないところでも」
そう言い終えると、ラヴァは机の上に置かれた紙を手に取った。目に手を当てている。
「これはカールからの報告書だ。"暗殺者"に襲撃された跡があると送られてきた。この報告書で君のことを聞いた。報告によると、君は一度死んでいるらしい」
「はい。俺はランの術で復活したと聞いています」
「雷の種子の話も聞いているかね?」
「はい。これを食べなければ正気でなくなると」
「ならば良い。あと、君は故郷に帰らないと聞いたが、なぜだ?」
「外の世界を見てみたいと思ったからです。」
この返事に驚いたのか、ラヴァは笑った。
「ああ、そうか。なかなかいい肝をしている」
続けてラヴァは言った。
「我々が里の外に人間がいると知ったのはつい最近のことだ。奇妙な人がやって来てね。彼女が君のことを呼んでいる。後で顔を見せてやってくれ。今はガーネットと名乗っているようだ」
感謝の言葉を述べ、部屋を出ようとしたとき、ラヴァが言った。
「ああ、最後に一つだけ。君は好奇心が強いみたいだから言っておく。一人で外に出ないでくれ。一応里の柵がある所までは結界が張られている。外で捕食者はいつでもやって来る。地形や時間に関わらず。ランの結界術で帰りは無事に来れたと思うが、通常、里の内側にしか結界は存在しない。外に出ないで欲しい。それだけ理解しておいてくれ」
ラヴァの部屋から出て、先ほど話題に上がった人の部屋に行く。ガーネット……名前が長い。昨日は全然気が付かなかったが、ここの建物は都市のビルみたいに簡素でなく、曲線がおしゃれだ。
ノックしてドアを開ける。ドアの先に長髪の女性が待ち構えていた。
「この時を待ちわびたぞ。竜の子よ」
この人だろうか、変な人と呼ばれているのも分かる。目をつむっていて、どことなく高貴な雰囲気。そして、言ってることがおかしい。
「えっとー、初めまして。俺はSといいます。ガーネットさんですよね? ラヴァさんから聞いて来ました」
「お前が来ることは私が決めた」
話がかみ合ってない。ああ、苦手なタイプだ。この人、都市の人たちに似てる。特に同じ職場の同僚たちに。
「あのーなんの御用だったんでしょうか?」
「座れ。竜の子よ」
俺は近くの椅子に座った。
「お前は家族というものを知っているか?」
急な質問にびっくりした。
「知ってますよ。同じ家で過ごすヒトたちのことでしょ?」
「違う」
彼女は否定した。
「では、母や父というものを知っているか?」
……知らない。
「……いえ」
「では、親というものは?」
この人は何を言ってるんだろう? ホントに頭がおかしいのか?
「何が言いたいんですか……? 親とは機械でしょ……? 戻っていいですか……?」
彼女は赤い目を開いた。
「人は人から生まれるということだ、竜の子よ」




