冷えてゆく
里は柵で囲まれていた。柵の前で何かが噴き出している。黒い泥のようだった。
「あいつは……!」
カールが驚愕した目でそれを見る。明らかな敵意が感じ取れた。
「みんなここにいろ。動くな」
カールが前に行こうとするのをランが止めようとした。しかし、カールは無言で進んでいく。
それは大きくなった。カールと同じ大きさになったところで少し萎んだ。それは腐った匂いを漂わせる。手足が五六本生え、叫び声が聞こえる。だいぶ距離が離れているはずなのに汗が止まらない。
リンに尋ねた。
「あれは何?」
「"捕食者"よ。さっき言った危機の原因。あいつは里の人間を取り込んで消える。意思を持ってるみたいに動き回って……」
カールは槍を構え、じりじりと距離を詰めていく。
カールの目付きが鋭くなった。と同時に捕食者の方から気味の悪い音が聞こえる。叫び声、泣き声、嗚咽、そのどれでもないような音。
「ああ……モレーン……」
突然、カールはその場で膝から崩れ落ちた。"捕食者"は液体をまき散らしながらカールに近づき、そのまま泥と共に飲み込んだ。カールが安らかな表情をしているように見えてしまった。
「カール!」
ランが叫ぶ。捕食者の影は地面に染みこんで消えてしまった。その場に残ったのはカールの使っていた槍と身に着けていたであろう服の金属片、血肉だった。
二人ともカールが消えた場所でへたり込んでしまった。俺はただ立ち尽くした。動揺したまま、言ってしまった。
「蘇らせるには、どうすればいい?」
ランは無言のまま、顔を伏せた。涙がこぼれていた。俺はもう生き返らないことを理解した。
「ああ、デシア様。カールを安らかにお送りください」
里に入ってすぐの場所、広場でカールの葬儀が行われた。槍や彼の跡はすぐに回収されていた。みんな慣れているみたいだった。
「来訪者よ。我らの里では世の常だ。悲しみは明日に持ち越してはならない。明日には自分の一部として共に生を歩むのだ」
葬儀の最中、リンに腕を引っ張られた。
「お姉さまのことはそっとしてあげてね……? Sは良い人だとは思うけど、ちょっと分からないことが多いの。カールのことは残念だけど、代表が言ってたように、明日からも生きていくの。Sは生き返ったわけだし、明日を大切に生きないと!」
静まり返った里の中、寝所に案内された。自分が死ぬときは一瞬で、何でもないことなのに、他人の死はどうして苦しいのか。体が冷たくなっていくみたい。でも、冷えているのは体だけじゃなかった。




