霊凍庫
「私の職場にも似た人間がいた。都合の良いときだけ目が見えなくなる愚かな同僚だった」
その人は倒れている男の腕を手で切り落とし、鍵を抜き取った。鍵を見つめながらその人は続ける。
「彼の提案はどれも素晴らしいものだった。鍵・消費者・捕食者・都市分離・霊凍庫……。段階的に進んだ計画は社会を発展させた」
懐に鍵をしまった。
「第一段階、『鍵』は多くの可能性をもたらした。どんな人間も善に寄りかかる、平和と平等への一歩とされた。第二段階、『捕食者』は鍵の原料生産を安定させ、『消費者』は生産環境を整えた。都市分離で国に不満を持つ者はいなくなり、鍵の工場と保管設備、『霊凍庫』が作られた。彼の正義は排除であり、平和は無だった。かつての彼は尊敬に値した。無論、私も尊敬していた」
「だが、計画が終盤になったところで、彼は怯えだした。狂ったふりをして逃げようとしているのか、本当に狂ってしまったのか、誰も分からなかった。彼を支配したのはとうに捨てているはずの感情だった」
こちらに歩いてくる。
「死ぬ直前まで彼は苦い木の実を貪り続けるだけだった。最後の言葉は『必ず償う』と。私の手で命を絶った。彼の『償い』のせいで国は不完全なままになってしまった」
歩みを止めた。
「そして今、彼の償いが霊凍庫の中を歩いている」
赤い目の女性がこちらを見つめていた。知っている言葉を挙げるならば恐怖。だが恐怖だけでは言い表せないほどの雰囲気・威圧感。
「私は君を解体しないといけない。S」
突然顔の潰れた男を投げ飛ばしてきた。それを受け止める。
「ぐッ」
男の体を肩で支えようとしたら、腹部が熱くなっていく。
「やはりお前は一度作り直されている。血中のクリスタル濃度が低い」
女の腕が腹を貫いている。この一瞬で距離を詰められたのか。血がどんどん流れていく。意識が無くなりそうだ。俺はその場に倒れてしまった。
「お前は記録がないから、生産所の物だな。強い力を感じる。良い鍵になりそうだ」
ランを見て言っている。
「あんた何言ってんの? 私は鍵にならないし、急いでるし、Sより強いし、あんたにも負けない」
ランは前に手を出した。すると、手から大きな青い炎の渦が出てきた。
「S、安心して見てて。あんたがいなくなってから私も強くなったわ。こんな奴一撃よ。ただちょ~と時間がかかるから、お腹治して離れてね」
彼女はウインクして言った。一目で無理してると分かる。声も体も震えている。
「冥界の炎を操るか。生産所の質も上がったものだ」
「よゆーそうにしてんじゃないわよ!」
彼女は炎に次いで、いろいろ出し始めた。トカゲっぽいやつ、羽の生えたやつ、針金のようなやつ。それらは一斉に女に襲い掛かる。しかし、一瞬で、グシャアという豪快な音とともに消えた。
「そうでもないか。これではここらの人間と変わらない」
ランが驚いている。無理して笑みを浮かべているが、内心焦っているのが表情に出てる。
「まだまだ出るわ! 次は多分もっとでかいやつよ! もうちょっと警戒したほうが良いと思うわよ! そんなに真っすぐこっちに歩いてこない方が良いわ! 急に出て来るから!」
「そうか。ならば鍵を使った方がいいな」
腹の穴がだいたい塞がった。今、女は無防備に見える。今なら不意を突けるかもしれない。
「消えろ」
炎が見えた。女の手から出た炎はランのものより一回りも二回りも大きく、赤い。炎はまっすぐ進み、ランが出すものを消し飛ばす。すべて一瞬で焼かれた。通行人も数人混じっていたみたいだ。焦げた跡が煙を上げている。だが、幸いランには当たらなかったみたいだ。
「やるじゃない。次はとっておきよ! もっと大きい炎じゃないと焼けないわ!」
巨大な岩が粉塵を飛ばし現れた。この岩見たことがある。ゴムのような肉で繋がれた黒っぽい岩。もしかして消費者の体を使っているのか?
「……?」
女が岩に気をとられ、粉塵が舞った隙にランは俺のところに跳んできた。
「上に跳ぶわよ!」
俺を抱えてすごいスピードで上に跳びあがると彼女は叫んだ。
「大地よ! 我らを運びたまえ!」




