表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霊凍庫  作者: 弐鈴
今どこにいますか
22/27

野生を忘れた街から出て


 あれから1年が経った。あの旅行から生活は何も変わっていない。仕事をして、帰って、食べて、トイレして寝る。


 今日は簡単な仕事のはずなのだが、頭がおかしくなりそうだった。文字を逆順に書いていく作業だった。かつての自分は毎日これをこなしていたのかと思うと尊敬する。帰り道、ビルの隙間から漏れた光が綺麗だった。

 「キレイだな……」

 ふと口に出して気付いた。最近独り言が多い。そして、頭痛がひどい。


 真っ白なマンション。真っ白な部屋。真っ白なベッド。前はこんなに白くなかった。もっとカラフルだった。それが今は染み一つない。真っ黒なスーツを着ていると、自分がこの世界の不純物にでもなった気分だ。

 「今日もお疲れさまでした。グレープ味のクリスタルを用意しています。お召し上がりください」

 ぎこちない人工音声がそう告げる。前の音声の方が好きだった。最近クリスタルが美味しくない。胸が痛くなって涙が零れそうになる。なんとか胃に流し入れる。臭みを甘さと香辛料で消しているようだった。

 「病院に行った方がいいか……?」

 確実に何かがおかしくなった。病院に運び込まれる前、旅館で倒れたとき何かあったのかもしれない。あのとき、必死に何かをしていて、その後、女の人を刺した。あの必死な感じは夢だと思えないが、夢だったのだろうか。

 「夢だったのか……?」

 鏡を見つめてそう呟いた。灰色の瞳は狂気か。きっと狂気だ。


  ***


 「夢じゃないわよ」

 どこかで聞いた声だ。人工ではない。

 「落ち着かない部屋ね。頭がおかしくなっちゃいそう。ここじゃ正気を保てないわけだわ」

 ドアの方に誰か女の人が立っていた。誰だ?

 「これ持ってて」

 これは……槍? 何で? 頭に手を当てられた。すると、記憶が溶けていく。


  ***


 「モレーン、あんまり先に行かないでくれ。リンが追いつけない。ランもだ、もう少しゆっくり。里の外だから、まとまって慎重に動かないと」

 「カールお兄ちゃんが守ってくれるでしょ! それに、いざという時はランの術もあるわけだし! 何より私が指一本触れさせないわよ。私がこの辺りの捕食者ぜーんぶ倒してしまうんだから!」

 モレーン呼ばれている少女が見える。自信満々な様子だ。


 急に場面が変わった。雨が降っている。視界が水でぼやけている。

 「モレーン!!」


 再び場面が変わった。

 この目は俺の目だ。先ほど見ていた灰色。鏡を見ているのか? いや、違う。別の人間の目だ。背が高く、槍を持っている。

 「俺はカール・ベルグ。あれはランとリンだ。少なくとも数日は一緒にいることになることになるだろうから、よろしくな」

 夢で見たデジャブの炎が目の前で揺れている。

 「ああ……モレーン……」

 「カール!」

 目の前が真っ暗になって記憶が溶け切った。


  ***


 「大体分かった? 期限は30分、出るわよ!」

 いや、分かってない。でも、懐かしい感じがした。

 「え?」

 「この野生を忘れた街から!」

 手を引っ張られたままドアを通る。そのまま外へ……。いや、ここは高所だった気が。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ