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霊凍庫  作者: 弐鈴
野生を忘れた街から出て
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対価


 「どう? お姉さま? 生きてる?」

 「生きてる訳ないでしょ! 真っ二つどころじゃないんだから……!」

 「でも……お姉さまなら生き返らせるから……。持って帰った方が」

 「さらっととんでもないこと言うのね。持って帰ったら、奴らに死体がないって不審がられるでしょ」

 「奴らは死体なんか見ない。"捕食者"みたいに相手を殺すだけだ」

 「なら持って帰れるね! 袋に入れるよ!」

 「……はぁ。どうなっても知らないわよ」

 「ここは危険だ。急いでくれ」


 数人の声が聞こえた。声の一つは……リン? そして、他の声は低いのと高いのが一つずつ。視界もなく、グチュグチュという音だけが聞こえる。足も手も動かせない。確か、腕が自然と吹き飛んで……。今は全身の感覚がない。

 「カール、水をもっと頂戴。血が残ってないみたい」

 「お姉さま?」

 「黙って」

 「ごめんなさい……」


  ***


 突然、眩しい光で目が熱くなった。

 「うわあ! 目が焼ける!」

 眼球の熱さに耐えきれず飛び上がった。体が重くて痛い。ぼんやりと姿が見えた。三人いる。

 「S、冥界から戻ってこれたのですね! デシア様、感謝いたします。お姉さまもありがとう!」

 「…………」

 声が出なかった。舌と喉が動かせなかった。呼吸するのがやっとだ。さっき叫んだせいかもしれない。それに、さっき飛び跳ねたせいか痛みがだんだん強くなっている。

 「今は動くな。全身の結合が弱い」

 低い男の声だった。頭が痛む。全身が圧迫されている感触。視界と内臓が上下に揺れる。

 「後は俺が見ておく。みんなもう休め」


  ***


 痛みのせいで眠れない。包帯が巻いてあるのか圧迫感が強くなっていく。

 「痛いだろうが、耐えるしかない」

 火の灯りに照らされた大きな男性が喋っている。ぼんやりとしか見えないが、棒のようなものを持っている。

 「意識があるみたいだな」

 「…………」

 「それに、言葉も分かっているみたいだな。妙なことだ、俺たちと同じ人間なのか?」

 「…………」

 その男の声は真剣だった。

 「まっ、人間じゃないわけないか。俺はカール。あれはランとリンだ。小さい方がリン。大きい方がラン。少なくとも数日は一緒にいることになることになるだろうから、よろしくな」

 彼はじっと焚火を見つめている。その火は大きくなり、小さくなり、消えることなく闇の中を揺れ動いていた。


 日が昇り始めた。葉の隙間から漏れた光が目に入ってくる。

 「いい朝だ」

 カールはそう言って何か書いている。俺が首を向けると彼はこちらを見た。

 「もう動けるのか?」

 別の声が聞こえた。

 「もう安定してる。あと一日もあれば立てるわ」

 グイッと顔を掴まれた。この人がラン……? 顔の輪郭がリンに似ている。後ろからリンが歩いてきた。

 「S、おはよう! 昨日はごめんなさい。何も説明できなかったね。実は私、Sが居た所とは違う所の出身で、ちょっと遊びに行っちゃったの」

 食い気味にランが言う。

 「里の外に遊びになんて行かないでしょ! 普通! 前例があんなにあって、身近な人も死んでて、助からないって知ってるだろうに!」

 続けてカールが言う。

 「ランの言う通り、今回はリンが悪い。そう簡単に約束は無視しちゃだめだ。約束は皆を守るためにある。約束を無視して外に行ったところで理性的な判断すらできないわけだからな」

 「でも二人とも助けに来てくれたよ!」

 「それは……」

 もう少しで声が出そう。

 「あんたを心配してたのよ! ……まったく、世話が焼けるんだから」

 「ごめんなさい。でも、私、もっといろんなことを知りたかったの。だってこれは私の人生だもの。お母さまもそう言ってたから……」

 声が出た。

 「ど、どういうこと」

 さっきから何が何だか分からない。状況を説明して欲しい。

 「S、あなたは一度死んだの。真っ暗闇の中で"暗殺者"って呼ばれてる生物に殺されて……。お姉さまの術で助けてもらったのだけど、あの、その、復活の対価としてね、寿命が半分消えるの。それに、一日に一回はこれを食べないと正気を保てなくなる。冥界との繫がりが強まっちゃうんだって」

 彼女の手のひらの上には何らかの種子があった。

 「巻き込んでごめんなさい」

 リンがこんなに頭を下げる意味が分からなかった。

 「そんなに謝らなくても……。俺が死んだらしい元凶は別にあるんでしょ? それに、結局俺は復活?したわけでしょ? それなら俺は嬉しいですよ」

 リンは沈黙していた。それを見て、ランが口を開いた。

 「あんた変わってるわね。死んだのに、もっと何かないの? それか、もう正気じゃないとか」

 リンは包帯が巻かれた右手を握ってきた。

 「……S、ごめん」

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