鍵とは
葬式で目を閉じている間、時間はゆっくり進んでいく。誰かが泣く声、鼻をすする音、消えない気配……。悲哀を肌で感じる。キャスのことをほとんど知らないまま彼は消えてしまった。なんで眠そうなのかも……。もう一人のウグリムに対しては全く知らないまま消えた。会ったこともない。顔と声はもうあの世だ。ここで泣いている人々は彼らと何らかの交流があったという事実に震える。だって、ここに来てから見たことない顔ばかりだから。
(俺が死んだら、誰か悲しんでくれるのか……?)
頭の中でこんな疑問が生まれた。
(俺が死んで悲しんでくれる人……。いるのかな……? リンは悲しんでくれるかな。俺は俺が死んで悲しむ人のために生きていたいなあ)
キャスとウグリムの亡骸は南の塚に撒かれた。骨片と血のみの亡骸だった。
葬式の後で、ラヴァが報告書を回収しに来た。俺はキャスが寝不足だった理由に納得してしまった。
***
「おい、お前」
ナイフでの突きを練習していたとき、どこからか声が聞こえた。辺りを見回しても誰もいない。不思議がっていると、再び声がした。真上からだった。空間が裂けたような暗い隙間から、男が顔をのぞかせている。俺よりも少し若い印象を受ける。
「ちょっと話がしたいんだ。こっちに入ってくれ」
返事するより前に、彼に腕をつかまれて隙間の中に入り込んだ。隙間の中は小部屋になっていた。タンスと机、椅子が置いてある。
「実はお前がここにやって来てからずっと見てたんだ。覗きみたいで気が引けたんだけど、そんな些細なことに構ってられる状況じゃなくてさ。俺の名前はT。お前と同じ都市の出身だ。お前の名前はSらしいな。これからよろしく!」
急なことで理解できなかった。何に対してよろしくって言ってるんだ。
「ずっと誰か来ないか待ってたんだ。ここで生きるのは大変だったぜ。不気味な住人達の目をかいくぐって食べられそうなものを選んでさ。でも、やっと帰ることができる!」
どういうことだろう?
「お前も帰れなくて困ってるんだろ? 俺もなんだ。国に戻るには、付近に住み着いてる化け物を何とかしないといけない。だから一緒に奴らをぶっとばそう。ガーネットから鍵をもらっただろ? あれはお前にしか使えない。お前が竜の力を使って化け物を蹴散らせば万事解決だ!」
彼はなんでそんなことを知っているんだ? まず、鍵ってなんだよ。
「鍵ってなんだ?」
この質問に対して彼は驚いていた。
「鍵を知らないのか? 生まれついての才能を解放する道具だよ。俺がこの部屋を作ったみたいにさ。ガーネットが言ってたろ? やばいときに鍵を飲み込めって。あれはやばいときに力を使えって意味だぜ」
鍵はまあ少し理解できた。でも、竜の力ってなんだ? あと、ガーネットと知り合いなのか?
「ガーネットと知り合いなのか?」
「いや、隙間から見てただけ。ここの住民と別方向で不気味なんだ」
里の人が不気味……?
「じゃ、戻ろうぜ!」
「俺はまだ戻る気はない」
そう言った瞬間彼の目が点になった。
「え? なんで?」
「俺はここでやらないとだめなことがあるんだ。ここにいる人を助けたいんだ」
彼は少し興奮した様子だった。
「あんな不気味な奴らどうだっていいだろ! 俺は一人で耐えてきたんだ! ふざけんなよ、お前なら何とかしてくれると思ってたのに、ここに留まりたいマゾヒストだってなんてドン引きだぞ!」
「問題を解決したら頼みを聞く。だから今は待ってくれ」
「なんだよ! こんなクソ環境で待てっていうのか? 待ってた俺がバカみてえじゃんか! もういいや。俺は自分で何とかする」
俺は謎の小部屋から追い出されてしまった。




