鎖人
食堂でリンに会った。リンは落ち込んでいるみたいで、テーブルに顔を擦り付けていた。普段はため息をつかないのに今は数十秒おきにため息をついている。彼女に理由を聞いても、ただ疲れているだけだと言われた。料理が運ばれてくると、静かに食事を済ませ、食堂から出ていった。
「リンのやつ、また落ち込んでるよ」
厨房のブラトがそう言っていた。俺は詳しく聞いてみた。
「よくあることなんですか?」
「ああ。数日落ち込んだままなんだよ。ため息だけついてほとんど何も喋らずにいるんだ」
「そうなんですか……」
俺は食堂から出て彼女を追いかけた。とぼとぼ歩く彼女が一人農場に向かうのが見えた。飼育小屋の中から声がする。
「デシア様、私は何もできないのでしょうか……。術も使えず、死者の声も聞こえず、ただここで動物の世話をするだけです。何らかの役には立っているでしょう。でも、問題の本質を解決することではありません。ただ怯えて生きているだけです。この子みたいに……」
小屋に入った俺に気が付いたのか、リンは慌てた様子でこちらを見た。彼女の腕の中には小さくてモフモフした動物がいた。
「あ、えっと、もしかして、聞いてた……?」
「あーごめん。聞いてた」
どうやら落ち込んでいる原因があるみたいだ。気まずい空気を断ち切ろうと思ったのか、彼女から話し出した。
「この子が何だか分かる?」
「ああ、鳥ってやつだよね 学習資料でしか見たことないけど」
「……そうなんだ」
会話は途切れた。気まずい。俺から話そう。
「えっと、そういうときもあるよ。俺も国にいたときは何も考えずに、ただ生きてただけだし。別れは悲しいし、今が最高ってわけじゃあないけどさ、良くなったこともあるんだ」
何とか適当な言葉を絞り出す。
「リンとこうして喋ることができるし、目標もできたんだ」
モフモフしたもの(たぶん鳥)が俺の下を通っていくのが見えた。
「太陽に行きたいと思ったことがあるの。この冷たい地面と違って光が暖かいから。冷えることはないだろうって。目標はどこまで進んだって目標なの。どれだけ地面を蹴り上げたって太陽に届くことはないでしょ?」
リンの目は太陽の光で金色に見えた。
「ごめん。私も私自身がなんでこんなに悲観的になれるのか分からない。もしかしたらSに嫉妬してるのかもしれないし、劣等感に浸っていたいだけなのかもしれない。いつもの元気な私を見せられるようにしておくね」
リンが小屋から離れていく。俺は残ったモフモフを見つめていた。自分のことじゃないのに胸が痛い。体の中で何かが超低温で沸騰しているような感覚。このままだとリンとの距離が永遠に離れていくような気がして、思わず大声を出した。
「俺が……! なんとか、俺がなんとかする!」
「なんとかって……無理だよ。変わることはないんだから」
「俺が変わる! もっと強くなって、俺が……なんとか……! だから、だから……」
言葉に詰まってしまった。なんて言えばいい? 笑って? 元気になって? そう考えているうちにリンは見えなくなっていた。




