決心
うげぇ……。ガーネットだ。
「あ、どうも」
もういい。神経がずっと緊張状態だったから疲れがドッときた。今日はもう難しい話をしないでくれ。ついでに俺はガーネットを信用していない。初対面でこっちの出生について一方的に話してきた。何のために話したのか謎だ。俺に嫌悪感を抱かせるために言ったのか?
「私は敵ではない。お前は人であることの運命を歩き出したばかりだ。攪拌された感情に従えばいい。血まみれになれたお前に良いプレゼントがある。後で話そう」
そう言ってガーネットは戻っていく。また変なこと言われるのかも。心の準備だけしておこう。
水を浴びて血を洗い流した。まだ錆びた鉄のような独特な匂いが残っている。数日は落ちないだろう。多少キレイになったところでラヴァのもとに向かった。係について言うためだ。
「失礼します」
ノックをしてドアを開けた。
「ああ、S君か。少し待っていてくれ」
ラヴァは背の高い男と話しているようだった。言われた通り待っていると、しばらくしてドアが開いた。背の高い男が俺を睨みつけるように通り過ぎて行った。彼から違和感を感じた。ほんの一瞬前を通り過ぎただけなのだが、里の中で彼だけ浮いているというか。そんな違和感だ。
「今の人は?」
「彼はヒヨードという。普段は地下で研究をしている。今日の収集物だった死霊石も彼の研究材料だ」
二人とも椅子に座った。
「君が生きていて良かった。死んでしまっては葬式をあげることしかできないからな」
ラヴァは少し申し訳なさそうに言った。やっぱり無理だと思っていたのだろうか。
「俺はランに助けてもらいました。そのとき、係を変えてもらうべきだと言われました」
「今の採集係は熟練者ばかりだ。君を無理に入れる必要はなかったな。私のせいだ。すまない」
「俺は何もできませんでした。何も……。だけど」
彼は被せ気味に言った。
「ならば食堂係はどうかね。料理は楽しいものだ。ブラトも人が増えて喜ぶ」
俺は今満足が欲しい。本能の一つ上に置かれた欲望。里のみんなに笑って欲しいという欲望。笑えない原因を消すこと。不可能でもやらない訳にはいかない。そのためには敵を知らないとダメだ。
「俺は……」
ラヴァが心配そうにこちらを見ている。
「俺はこの係を続けます」
彼はため息をついた。
「そう言う気がしていた。さっきのヒヨードも大きな野望を持っていた。君と同じかもしれない。見て分かる通り彼は壊れた。今はただ激情だけで動いている。私は心配だ。君もああなるのではないかと」
彼は数秒黙った。
「……倉庫に装備の予備がある。替えが必要だろう。好きなものを持っていくといい」
倉庫の隅で銀色に光るものがあった。ナイフ……前のものより長い。どっしり頑丈そうで、扱いやすそうだ。俺はこのナイフを持っていくことにした。
ラヴァの部屋から出た先にガーネットが立っていた。
「良い具合に混ざった感情だ。その目から溢れている」
「何ですか?」
目を閉じたまま言うから不気味だ。
「お前の出身の国は感情を生まない。そこに住む人々が感情を生まないからだ。今のお前には感情がある。赤ん坊のような生まれたての感情。慣れが必要だろう。無鉄砲な行動を抑制できないまま死んでもらっては困る」
彼女は手を差し出して言った。
「受け取れ。竜の子よ」
金属の棒だった。紐で首に掛けられるようになっている。
「無鉄砲を自覚すると同時に丸呑みしろ。健闘を祈る」
彼女はそう言って去っていった。




