死霊石
ロトーは急に自分の頬をパンパン叩きだした。
「だ~~~~め! 弱気になっちゃいけませんね! 楽しみもなくなったら生きていけないんですから!」
そう言ってはいるものの元気がない。
俺たちは里に戻って、倉庫に向かう。今回取って来たものを置く。種子は手前に、剣は血を拭って奥の方にしまわれた。
以上で仕事は終わり。確かに危険と隣り合わせな点を除けば、結構楽な係なのかもしれない。危険が大きすぎるけど。まあ、料理をするような係でなくて良かった……。料理は苦手だから。今回はロトーが報告書を渡しに行ってくれた。慣れるため俺は明日も仕事があるらしい。明日は別の人と一緒だ。
次の朝。集合場所の食堂に向かう。皆が食べている中、一人だけうつ伏せになって寝ている人がいる。あの人が日程に書いてあったキャスだろうか。布団みたいな外見……間違いない。
「おはようございます。Sです。よろしくお願いします」
挨拶をしても起きる気配がない。巨大なフードを被ってスースー寝ている。起きる気配がない。俺は軽くゆすってみた。机に涎が垂れそうだ。
「…………」
全然起きないので、強めに揺らしてみた。
「はッ! 寝床に雷の木を植えるなッ!!!」
ガバッと上半身を起こし、手の甲で涎を拭いている。
「寝てました。すいません。あなたはえーと……。ライスみたいな名前の……。なんでしたっけ?」
「あっSさん。変わった名前ですね。僕は採集係のキャスです。役立たずになる予定ですがよろしくお願いします」
そんなことを言われると頼りなく感じる。
「これが今回の収集予定物のリストです。目を通しておいて下さい。早速行きますか」
まだご飯を食べていないのだが、彼は外に出ようとしている。
「ご飯はもう食べたの?」
「夢の中で十杯食べましたので大丈夫です」
この人、ずっと寝ぼけているような、眠いような感じだ。外に出るのはまずいんじゃないか。やんわりと聞いてみたが、いつもこんな感じ大丈夫です、と返された。大丈夫じゃなさそう。
今回の目的は野草と冥界結晶という石を探すこと。野草の方は柵の近くに生えていて、冥界結晶は南の塚の先の谷にあるという。昨日も少し感じていたのだが、集めるものが少ない。これで十分なのだろうか?
「採集っていつもこの量ですか。ちょっと少なくないですか」
「充分です。外は危険だから、多くは持って帰れないです。それに、この里は何度も世代交代を繰り返していくうちに、里の中である程度循環が可能になりました。なら、わざわざ外に出る必要あるのかって思うかもしれないですが、外の環境を確認するのも大事な仕事です。全部聞いた話ですが。僕が思うに、キール代表があなたをこの係に任命したのも早く慣れて欲しいからだと思います」
キャスはどや顔で欠伸をしながら言う。
「何でそんなに眠そうなんです?」
余りにも眠そうなのでつい言ってしまった。
「眠いって自分で制御できないので眠いんです。制御できれば眠くなんてないわけです」
答えになってない。けれど、キャスが会話の流れを切るように早く歩くので、黙っておいた。
柵の外側、カールが捕食者に飲み込まれた辺りに豪華な服のように葉が広がった草が生えている。食用……ではなさそうだ。これが目当ての野草らしい。結界の中だと弱ってしまうからここに植えられているらしい。ここでも捕食者に襲われたことがあるとか……。
一束ほど採った後、南の塚の先の谷に向かう。カツカツと石の音がする。コンクリートみたいな音だ。谷の下を覗こうとしたら、キャスに髪を引っ張られた。
「だめです。下を覗いたらだめです。この谷の下は消費者がうじゃうじゃいますから、一瞬で見つかりますよ」
「でも、この下に探している石があるんじゃ?」
「そうです。でも、もっと楽に採れます。これを使って」
赤色の……笛……? キャスはそれに紐を結び、その場で回すと、遠くに思いっきり投げた。笛は弱弱しい音を出しながら下に落ちていく。何かが笛を潰した音がした。その音を確認してから、キャスはロープを下まで垂らす。そしてすぐに引きあげる。すると先端に石がくっついている。じっと見ているとキャスに腕を掴まれた。ダッシュで谷から離れる。
「一つ……。まあいいんじゃあないですか。使う人も少ないですし」
彼はそう言うが、どういう仕組みなのか分からない。
「どうして石がくっついたんですか?」
「ロープにこれをくっつけたんです」
ロープの先端に頭蓋骨が括り付けてある。
「この石、冥界結晶は別名死霊石と言います。亡骸に反応してくっつくんですよ。ふふっ……さすがにあなたにはくっつきませんね。ちょっと面白いです」
あんまり笑えない冗談だが、キャスは始めて笑った気がする。ところでこの石、独特な匂いだ。微かに嗅いだことがある……甘い……しかし何だったかまでは思い出せなかった。




