Draw 2:TCGホビアニのカードは耐水性が異常。
※当小説にはTCG及びホビアニへの偏見が随所に見受けられます。
※これらは全て作者及び各キャラの主観に基づくものであり、事実とは異なる場合がございます。
「水貝……!」
「くっ……来ないでくれ……唯一くん……」
「そんな体で何を言ってやがる!」
少し前に空模様は怪しくなっていたが、遂に雨が降り出す。
水貝は。
その雨の下。カードの散乱した地面に。
ボロボロの身体で膝をついていた。
「今の僕は……全然ナイスじゃ……ない。君の前に……立つ資格が……ないんだ。……敗者への情けは……惨めになる……だけさ……」
「おい! しっかりしろ水貝! 水貝! 水貝ィィィィ!!」
そして。
水貝は力なく地面に倒れる。
……気を喪ったようだ。
「水貝くん! 大丈夫!?」
俺を追って来ていた幾美も水貝に駆け寄ってくる。水貝の事は彼女に任せておけば、一先ずは大丈夫だろう。
すると、俺たち3人以外の声が発せられる。
「私は宣言通り、切り札を使わないで勝ったわ。これで貴方の出場資格は取り消し。良かったじゃない、早く身の程が知れて」
「テメェか! 水貝にこんな事をしやがったのは! 何をしやがった!」
水貝とCOバトルの対戦台を挟んで向こう側に居た、黒と白の髪の少女の声だ。
綺麗な声ではある。だが、ちっとも惹かれない。
彼女の紡ぐ言葉には熱が無いから。降りしきる雨よりもずっとずっと冷たくて暗い言葉だ。
「何って、COバトルよ? CHAOSトーナメント大会参加資格を賭けた、ね」
「じゃあ、なんで……! お前は水貝の集めた星を踏みつけてるんだ……!」
彼女の足元には水貝が集めていた8の星型バッジが散らばり、その1つの上に彼女の足が乗っている。
その理由を問えば、彼女の口は信じられない言葉を紡いだ。
「簡単な話よ。私は既に星を100個以上も集めてるから。今更こんなものに興味なんて無いわ」
「…………は? ……何を、言ってるんだ?」
星を100個集めた?
それなら、何で水貝と戦う必要がある?
「間引きって知ってるかしら?」
「間引き?」
「野菜や花を育てる時に用いられる方法の1つよ。最初はたくさん種を蒔いて、芽を出させるの。けど、中には育ちの悪い芽とかがあってね。密集し過ぎると育ちが悪くなるし、引っこ抜いて処分しちゃうの」
「それが何の関係がある……?」
なんだ?
彼女の言いたいことが理解できない。
いや、違う。
意味が分かるからこそ。それを俺は理解したくない。
「間引きをするから良い作物や花が育つの。人間も……COファイターも同じよ。私が大会前に弱い芽を刈っているの。理解できたかしら?」
「テメェは! テメェだけは絶対に許さねぇ!」
「大会の主旨を理解していないようね。書いてあったでしょ? 『――我こそが最強だと思う者。覚悟と共に来たれ』って。「最強」の覚悟は軽くない。遊びじゃないのよ」
「御託は良い! デッキを出せ、COバトルだ!」
「……別に構わないけれど。貴方、参加申し込みはしているの?」
「これから申し込む予定だったけど関係ねぇ! これは燃え上がる俺の怒りのバトルだ!」
「ふぅん、そう。ま、いいわ。やってあげる。貴方も眼鏡の彼と同じく、この切り札『ティティム』を使わずに勝ってあげるわ」
「言ってろ! 俺の炎がお前の傲慢を燃やし尽くす!」
どこまでも人を見下しやがって……!
絶対に勝ってみせる……!
◆◆◆
そうは言ったが……!
くそっ!
コイツ、強ぇ!
水貝に勝ったのはマグレなんかじゃねぇ!
「『傲慢の魔法少女/メア・スペルビア』でライフにアタック!」
『きゃはは! 喰らいなさい!』
「『残火姫/エン』でガード!」
『ここは通さないわ……!』
「メアの特殊効果発動! 私の山札の上から1枚と、手札1枚、そしてバトルゾーンの深度2以上の味方1体……『月夜の義賊/ロイバー・クリステフ』を墓地へ! これにより、メアのATKは+4000! ATK8000! エンを破壊!」
『弱い癖に前に出てくるからだよ! 死んじゃえ!』
「味方を犠牲に!? くっ……! エンの効果で俺のライフを3から4に回復!」
次々と味方を切り捨てていく戦法!
容赦のない冷酷な戦い方が全く読めない……!
しかも!
「さらに! ロイバーの特殊効果発動! バトルゾーンから墓地へと移動したとき、『セレモア』と名の付くカードを山札から手札に加える! 『吸血女王/セレモア・ニュクト・ガーネット』を手札へ!」
『俺は一時撤退だ。あとは任せるぜ、セレ』
「さらにさらに! 手札から捨てた『腹黒妖精/シシシ』の能力発動! 山札からカードを2枚引く!」
『シシシ! ただでは死なないシシシ!』
「これで、私の墓地にカードが15枚。墓地に置かれた『静穏の墓守/ネクロア・テルア』の特殊効果発動! 防御状態で特殊召喚!」
『私に近づけば、死にますよ』
止まらねぇ! コイツのコンボが!
まるでカードたちが彼女の下に集うかのように! 連鎖し続ける!
このままだと負ける……!
「ターンエンドよ」
「……っ! 俺のターン! ドローッ!!」
引いたカードを見る。
それは――!
「来た来た来たぁ! 燃え盛る混沌乱世に降臨せよ、『焼夷大将軍/イエヤス』!」
『いざいざ参ろう! 如何なる混沌も余が平定してみせようぞ!』
「そして! 伏兵カード『日出国之夜明』発動!」
◆◆◆
攻める攻める攻める攻める!
サンライズの効果で呼び出した仲間たちが攻める。
俺のデッキは仲間が多ければ多い程、互いに強化し合う侍デッキ。
絆で結ばれたモンスターたちが、苛烈な攻撃を続けていく。
そして、ついに。
「くっ……!」
「ターンエンド! どうだ、逆転したぞ!」
相手のライフは3。今の俺のライフは4。
そして、味方も揃っている。
これなら勝てる!
「私のターン、ドロー。……謝罪するわ。正直、貴方の事を見くびっていた」
「はっ、負けそうになってから何を言っても遅いぜ」
負け惜しみか、と思ったのも束の間。
「だから。最初の宣言は撤回。――ここからは本気で戦わせて貰うわ」
少女が一枚のカードを抱げる。
黒い光の奔流が、そのカードを中心に集まっていく。
「召喚! 私の鏡像、ティティム・クルデーレ!」
『待ちくたびれたわ、ニセカ! さぁて、消してあげる! 全部全部!』
現れたのは、オッドアイが特徴的な長く白い髪の少女。
真っ黒な服に身を包み、巨大な鎌を両手に軽々と持ちながら。
闇の奔流の中で、クルクルと楽しそうに舞っている。
そして――。
「――【覚醒】」
消されていく。
消されていく。
俺の仲間が。作戦が。全て全て。
「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!!!」
最後に。
俺の視界を黒い闇が塗りつぶした。
◆◆◆
「待ち、やがれ……!」
ボロボロの身体を無理やり動かす。
切れそうになる意識を無理やり繋ぎとめる。
そして、精一杯の虚勢を張って。
無理やりに声を張り上げて告げる。
「俺の名前は唯一! 火緒主 唯一! お前を倒す男の名前だ!」
「そう。私はニセカよ。……トーナメントの頂上で、期待せずに待っててあげる」
それだけ言うと。
少女は……「ニセカ」は、一切の興味を無くしたように立ち去っていく。
「絶対に、俺が、お前を、倒す。覚えて、おき、やが、れ……」」
「唯一! 唯一! 唯一ぃぃ!!」
最後に。駆け寄ってくる幾美の姿が視界に映って。
俺の意識は闇に飲まれた。
◇◇◇
「まさか、私が宣言を曲げることになるなんて……」
『うーん? ニセカ、言葉の割に少し楽しそう?』
「……冗談。勝つから楽しいの。壊すから楽しいの。負けそうになる事が楽しいなんて、そんなの馬鹿げてるわ」
『そういうものかなー?』
「そうよ。そうに決まってるわ。そうでなければ私は――」
『どうしたの?』
「――何でもないわ。帰りましょう、ティティム」
『おーきーどーきー!』
少年との戦いを終えた少女は道を往く。
その右手に1枚のカードを持ちながら。
「それにしても、火緒主 唯一。「火緒主」……まさか、あの男の……」
そして。
一度だけ振り返って。呟く。
倒れた赤髪の少年の所に、栗色髪の少女が駆け寄る光景を視界に収めながら。
「……だとしたら、本当にふざけた巡り合わせ。こんなモノが運命だって言うのなら、それこそ私が壊してあげる。完膚なきまでに、ね」
黒と白の髪の少女は往く。
破壊の道を、真っ直ぐに。