Draw 1:「開催宣言を聞く者たち」シーンのワクワク感は凄い。
『Attention, everybody!』
現代に蘇りし、巨大なコロッセウム。
蒼天に光るは、白き太陽唯一つ。
『待ち遠しかったよな、fighters! この日が遂にやって来た!』
楕円のスタジアムのメインスタンドとバックスタンドにはアーチ形の橋が架かり、その側面から2つのサイドスタンドへ向け、開閉式の天井が開け放たれている。
そして、アーチの中央から吊るされ、空中に浮かぶように存在する特大LEDビジョン。360度どこからでも視認できるソレには、マイクを右手にハイテンションで言葉を紡ぐ男が映っている。
『知っている人はohisashiburi! 初めての人はnice to meet you! My name is コルネオ! 今日は俺が、偉大なbattlesをSpecially実況していくぜぃ!』
ブロンドのアイビーカットに彫りの深い顔。マッチョな身体を真っ青パツパツのシャツで包む男。用意された椅子から立ち上がり、前のめりに身を乗り出す姿からは、溢れんばかりの楽しさが伝わってくる。
ありありと伝わる喜びの感情と、聞き取りやすく面白い実況。それによって、数々のCOバトル大会を盛り上げてきた人気者だ。
『そして! 今日の最ッ高の仲間たちを紹介するぜぃ! まずは解説! CO battleを語らせれば日本一、いやさ世界一! CO battle研究の第一人者ぁ!』
『ほっほ。米戸 明説じゃ。白日晴天、戦日和。本日は宜しくお願い致しますぞ』
コルネオの言葉に、右に座っていた老人が応じる。
御年90歳の白髪老人は、トレードマークの長い髭を撫でながら朗らかに言葉を紡ぐ。
しかし、髭に負けず劣らずフサフサの眉毛の下からは、鋭い眼光がギラギラと見え隠れしている。
『ひゅ~! 天下分け目の戦日和! 痺れる言葉thank youだぜprofessor! そんでもってぇ、次の仲間……特別ゲストを紹介するぜぇ! さっきのopening ceremonyは最高だったよな、audience! CPX社公認! COアイドルぅ!』
『いぇ~い! みんな~! 盛り上がってる~? 舞姫として舞台で舞い、ファイターとして戦場を舞う。混沌歌姫とは私の事! COアイドル、舞歌 マイカだよ! ――〝私の歌で救われなさい!〟……というわけで、よろしくお願いしま~す!』
次に、老人の右に座っていた桃色ツインテールの少女が応じた。
翠のクリクリとした目の右側を瞑ってウインク、右手をピースにして右目の前に置き、左手は左頬に添えるように……完全に「可愛く見られる姿」を熟知している振る舞いである。
『Yeaaaaaah! The ONE『ピエラ』の決め台詞で〆るのは流石だぜぇ! 参戦はしないのかい?』
『あはは。今回はアイドルとして呼ばれちゃったので~。本当に本当に残念です~。戦いたかったな~』
しかし、彼女もまた一握りの強者。
圧倒的実力を有し、「The ONEカード」に選ばれたCOファイターである。
『血を求めて彷徨う系アイドルの名は伊達じゃねぇぜ……』
『ちょっとお!? それ、どこの新聞社ですか!? それとも週刊誌!? ネット民!? ぶっ倒し……コホン。お倒ししちゃうぞ☆』
『ちっとも隠せてないぜ……っとと、どうやら主催者、死世神 偽華 CEOからの開会宣言が始まるようだ! 耳を傾けろ、audience! 画面切り替えろ、camera!』
スタジアム中央。床が開き、そこから白黒メッシュの髪を有した少女が現れる。
「強さこそ全て。勝つことにこそ意味がある。勝者は全てを手に入れ、敗者には何も残らない。――それが道理。世の摂理」
彼女の名は偽華。死世神 偽華。
「この混沌とした世界で、唯一無二の頂点になりなさい。他者を、限界を、運命を……立ちはだかる全てを打ち壊すの」
年若い少女は、しかし、堂々と言葉を紡ぐ。
そこに「幼さ」は微塵も見受けられない。
「それこそが、それだけが、己を証明する唯一の方法なのだから。――故に」
有するは「狂気」。
「示しなさい!」
或いは、「強さ」。
「己こそが! 最強なのだと!」
少女は。
良く通る声で、その場に集った者たちに……否。世界の全てに対して宣戦を布告するかのように。
その言葉を紡いだ。
「――ここに、第1回『西東京CHAOSトーナメント』の開催を宣言するわ!」
その瞬間、世界が震えた。
集いしファイターの咆哮が。英雄たちの活躍を待ちわびる人々の声が。
天へと轟き、大地を震わせる声、声、声。
◆◆◆
その騒然たる諸声に混じって――
◆◆◆
「クスクス」
「ケラケラ」
「弱い奴ほどー」
「よく吼えるー」
「最強はー」
「ワタシたちー」
「なのにねー」
「ねー」
――水色髪の双子はケラケラと嘲りの笑みを浮かべ。
◆◆◆
「まー、頑張りますよー、そこそこにー」
――茶髪の少年は気怠げに伸びをして。
◆◆◆
「ふっ、まだまだ若造共には負けんよ」
――男は腕を組んで仁王立ち。
◆◆◆
『anurietisiakirahiketukomoneraweraw?』
「anatara The ONE“ティティム”iboyo“ノブナガ”asuoyton」
『iisoroy。ahed、adisiakumnnin。iroynnetizneg、owognegnohik「日本語」oyesuoknehin』
「了解。コードネーム「古考 土乃」。行動を開始します」
――怪しげな者達が暗躍を始め。
◆◆◆
「………………」
――黒い仮面の男はスタジアムの屋根から会場を見下ろし。
◆◆◆
「頑張ってね、唯一!」
「おう! ありがとうな、幾美! 行ってくるぜ!」
――赤い髪の少年は駆け出し。
◆◆◆
「もぐもぐ……美味しい。田中、これ追加で10個買って来て」
「流石に食べ過ぎですよ、ティティムさん」
――少女は経費で出店の食事を貪る。
とにもかくにも。
大会の幕は開けた。
覆水が盆に返ることは無く。時は巻き戻せない。
ならば。
あとは雌雄を決するのみ。
ここに、戦いの火蓋は切られた――――!