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剣術

 授業後、生徒たちがぞろぞろと教室から出て行く中、ドンと誰かと肩がぶつかった。

「いたっ!」

 顔をしかめて相手を見ると、朝に嫌味を言ってきた少年だった。

「ふん、調子に乗るなよ」


 腹立たしそうな顔でそれだけ言い捨るとぽかんとしているリノアを置いて、友人たちと一緒に行ってしまった。エドガーが心配そうに尋ねる。

「大丈夫か?」

「あぁ、うん。何だったんだろう今の」

「気にするなよ。ルイスが質問に正解して悔しかっただけだろうから」


 面倒だし関わらないようにするか、とリノアは思ったが、自分が避けても面倒の方からやって来ることもある。それが起きたのは剣術訓練の授業中だった。


 バランスを崩して走っていた勢いのまま地面の上に倒れる。ざりざりと砂が足と手に擦り傷を作った。頭上から聞こえるのはあの意地の悪い少年の声だ。

「ハッ!どんくさいなあ!ただ走ることもできないのかよ」

 少年の取り巻きも一緒になってリノアをあざ笑う。もちろんドジで転んだわけではない。足をかけられて転ばされたのだ。同じくランニングしていた他の生徒たちは、こちらを気にしつつも助けてくれそうにはなかった。

 

 リノアは呆れてため息をつき、立ち上がって砂を払った。ランニングを続けようとするのを、少年が前を遮って止める。

「おい、なに無視してんだよ」

 本当に面倒くさい。何でこんなに突っかかってくるんだ。


「何を騒いでいるんだ」

 気づいた教師がリノア達の方に来る。少年は平然とうその説明をした。

「こいつが転んだので大丈夫か聞いただけです。そうだよな?」

「ちが――」

「またかルイス。どうしてランニングすらできんのだ。お前は温室育ちの令嬢か?」


 またって何。

 ルイスが言っていた鬼みたいな先生とは、きっとこの担当教師だ。熊のように大きく、ルイスが怖がりそうな厳つい顔をしている。


「違います。彼らに足をかけられて転ばされたんです」

「おい!違います先生、俺たちはそんなこと」

「どちらが正しいだのはどうでもいい」


 教師の言葉を聞き、自分の言葉を信じさせようとする少年は唖然とした。

「今はランニングをする時間だ。転ばされようとすぐ立ってまた走れ。喧嘩したいのなら走りながらやれ。お前たちみんな20周追加!さあ行け!」

 少年と取り巻きたちは恨みがましい目でリノアを見て、不満たらたらといった様子で走り始めた。


 なんて迷惑。

 リノアは擦りむいた足を気にしないようにしながら仕方なく走り始めた。


 結局、今日は剣術訓練はさせてもらえず、ずっと走ることになった。

 疲れた......今すぐにでも寝たいけど、しっかりご飯食べなきゃ。一か月もつかなこれ。

 

 空き教室で着替え、ふらふらした足取りで食堂へ向かう。途中でエドガーと合流した。

「お疲れ。その怪我は?まさかあいつらにやられたんじゃないよな」

「違う違う。うっかり転んだだけだよ」

 嘘をついたが、エドガーはまだ心配そうだった。リノアは明るい口調で言う。

「早くご飯食べに行こう。走ったからすごくお腹すいてるんだ」

「そうだな。俺も頭使って腹減った~」


 寮とは違って、ずらりと並んだ料理から自分で好きなものを好きな量取り分ける形式らしい。それを目にした途端、疲労や頭痛は吹っ飛んだ。どれも美味しそうだが我慢して食べられる分だけ取り分ける。

 この一か月のうちにぜったい全種類食べよう。


「ルイス今日は本当に腹減ってるんだな。いつもサラダとサンドウィッチ2切れくらいなのに」

 リノアは笑ってごまかした。エドガーの持つトレイはほぼ肉の茶色で埋め尽くされている。どうして彼は痩せているんだろう。

 2人は適当な席について食べ始めた。

「ちょっと聞きたいんだけど、いい?」

「ん?なんれも答えるぞ」


「アレン、先輩のことなんだけど。あの人って学園では前からあんな感じなの?」

 アレンの変化の原因を調べることは、ルイスの無茶な提案をのんだ理由の一つだ。婚約解消するつもりなのは変わらないが、何か事情があってあんな風になっているなら、放置はできない。


「あんなって、爽やか好青年みたいな感じってこと?んー。性格が変わったって話は聞いてるけど、俺は前の先輩を知らないからなー。確かルイスと同郷なんだよな?そんなに違う?」

「全然違う。女子を口説くのが生活の一部になってる人だった」

「じゃあ噂も全部が作り話ってわけじゃないのか?俺が聞いた話では、一年のころは大分派手に遊んでたらしい。女子とっかえひっかえしたり、寮抜け出して夜遊びしたり」

「よく退学にならなかったね......」


「そこは上手くやってたって話だ。女教師とできてて見逃してもらってたとか、寮母たらしこんでたとか。ここまでくると流石に話盛ってるだろうけどな」

 エドガーは所詮うわさだから、と笑ったが、次の瞬間真面目な顔で声をひそめて言う。


「だけど実際、教師が一人辞めている。寮母も今年新しく採用されていて、前の人は女性だったとか」

「え......」

 そんなまさか。いやアレンならあり得るか。


「まあ結局のところ、詳しい話を聞きたいなら誰か先輩に聞くのが手っ取り早いだろうな」


 それが一番確実か。でも先輩に知り合いなんて......そうだ、昨日会ったあの人はどうだろう。

「アレン先輩と同室の、ロッド先輩と話してみたいんだけど、どこに行ったら会えるかな」

「どこって、寮生なんだろ?夕飯のときにでも話しかけて――あぁ、アレン先輩に知られると気まずいもんな」


 本人に聞いて正直に答えてもらえるとは思えないし、なによりリノアだとバレるリスクがある。うまくロッドと二人きりになれればいいが、普段一緒に行動しているのであれば難しそうだ。


 うーんとリノアとエドガーは頭を悩ませる。

「呼び出すとか?ロッカーにメッセ―ジでも入れておいて」

「それ採用!」

「じゃあ放課後に――」

「放課後は先生から呼び出しを受けてるけどね」

「そうだった......」


 エドガーはがっくりと肩を落とす。すっかり忘れていたようだ。

「はぁ、今回は何時間で解放されるかな」

 常連なのか。

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