表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/19

突然の来訪

青空の下、洗濯物を干していたリノアはくうぅ、と伸びをする。

 あー、気持ちいい。風も心地良いし、昼寝したくなるなぁ。


 このごろ雨が続いていたこともあり、久しぶりの晴れに浮き立った気持ちになっていたが、それは午後の来訪者によって急降下することとなる。


 コン、コンとノックが聞こえ、リノアは玄関に向かった。

「はーい。どなたですーーわっ!?」

 何者かにタックルされ、よろめく。


 強盗!?

 咄嗟に花瓶に手を伸ばしたが、聞こえた情けない声に肩の力を抜いた。


「ただいまー、姉ちゃん」

「びっくりした。ルイスか」

 ルイスは双子の弟である。数ヶ月前に王都の学園に入学している。


「学校はどうしたの?まさか退学!?」

「違うよ!一時帰宅の申請したの!」

「なんだ良かった。せっかく父さんが高い入学費払ってくれたんだし」


 頑張ってるんだね、と言うとルイスは何やら浮かない顔をした。

「ちょうどクッキー焼いてたの。お茶でも飲みながら、学校のこと教えてよ」

「うん......」

 オーブンを開けると、焼けた小麦の匂いが部屋に充満した。皿に移してテーブルの上に置く。


「さあ、召し上がれ」

 それを見てルイスは目を丸くした。

「凄いよ姉ちゃん!焦げがだいぶ減ってる!」


 凄いのハードルが低い気がするが、以前のリノアを知っている者にとって、これは本当に凄いことなのだ。以前が100%黒焦げとしたら、今日のクッキーは70%くらい。当然ながらほぼ焦げた味しかしないが、リノアはふふんと胸を張った。


「ルイスが勉強してる間、私も練習したんだよ」

「もしかして、好きな人ができたの?」

「いや全然」

 なんだー、とルイスは肩を落とす。リノアはポットにお湯を注ぎながら、それで?と尋ねる。


「何があったの?」

「んー......訓練がきつくてさ。なんか僕ばっかりペナルティ受けるし」

「初めのうちはそういうものでしょ。みんな通る道だよ」

「そうなのかなぁ」


 正直、ルイスの体格では訓練について行くことは難しいだろう。同年代の女子にも負けそうだ。それに加えて、ルイスの性格が問題だ。


「はあ、学校辞めたい。先輩怖いし、先生も鬼みたいだし、みんなガサツだし......」

 ああ、この気弱さよ。

「僕もうやだよ!騎士になんかなりたくない!」


 リノアは泣き言を言うルイスの頭を撫でて、静かに言い聞かせる。

「騎士が高給取りなのは知っているでしょう?騎士になれば、父さんと母さんに楽させてやれるんだよ」

「でも......」

「女の子にもモテるよ」

 この言葉でやる気を出すと思ったが、反対にルイスは顔を青くした。


「いやだ!都会の女の子怖いよ!なんかギラギラしてて怖い!」

 女の子にもビビるのか......。

 しかし入学前は都会の女子との出会いを喜んでいたはずだが。向こうで一体何があったのやら。


「ルイスが夢を諦めたら、父さんが悲しむなぁ」

「僕の夢じゃないもん!騎士になるのは父さんの夢じゃん!」

 くっ!ちょっと賢くなったな。


 優しく宥めるだけでは無理と判断したリノアは、手法を変える。

「その歳でもんとか言うんじゃない!」

 怒鳴られてルイスはびくりとし、縮こまってしまう。


「絶対に騎士になれって言ってるわけじゃないの。でも今のままじゃどこも雇ってくれないよ。だから学園で勉強して、知識でも筋肉でも、なんでも良いから力をつけなさい」

「......そうすれば、学校辞めても良い?」

「もちろん。やるだけやったなら仕方ないって、父さんも許してくれるよ」

 ここで言う、やるだけやったとは卒業まで頑張るという意味だが、あえて言うことでもない。リノアがすべきことは、うまいこと丸め込んで王都へ送り返すことだ。


「そういや、学校にあ・い・つ・もいるでしょ?頼ったら良いじゃない」

 するとルイスは何か思い出したような顔をした。

「言い忘れてたんだけど――」


「ただいまー!今そこで会ってねー。あ、ルイス帰ってきてる?」

「母さん、思ったこと一度に言わないでってば」

 リノアは呆れながら玄関へ向かう。どうせご近所さんと会って、お茶する流れになったのだろう。

 しかしそこにいたのは、予想外の人物だった。


「アレン」


 呆然と名前を呟くと、彼は微笑んで言う。

「リノア。久しぶり」


 明るい茶髪に、見慣れた軽薄そうな顔のこの男は、婚約者のアレンだ。

 こいつも帰ってきてたのか......。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ