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【2】

部活をしてなかったので学校は平日だけ通っていたが、朝行われていた補習が今回だけ学校側で都合が合わずに土曜日に行うことになった。

仕方ないか。成績が良い訳じゃないから、補習受けておかないとテスト悪くなるかもしれないし。


今日はイケメンいないだろうな。

何せ平日毎日電車にいたから、土日は休みだろう。

そう思いながら、私は電車に乗り込んだ。



いた。

イケメンいた。

電車ガラガラの中、座席にイケメンが何かいるんですけど。

え、もはや何者?

土曜日も大学で講義受けないといけないとか、精神的に何か付け込まれてるんですか。



そんな事を考えながらイケメンを見ていると、イケメンが席を立った。

どこに行くんだろう?こんな事は初めてだ。

土曜日で他の車両も空いているから、移動するのかな。


と、思っているとイケメンは私に近づいてきた。

「……あの」

イケメンは声を掛けてきた。

イケメン要素に『爽やかで心地良いボイス』が追加された。




頭が真っ白になった。

今、イケメンが話しかけてきた?

私に?この激モブ女子高生の私に?

な、何で。何が起こっている。


「俺ってそんなに変ですか?」

「へ?あ、あへ?」

混乱して語彙が急激に消え去っていく。

「いつも電車でいろんな人に視線を感じて。実際に目が合った人もいる。そんなに変な見た目してるのかなって」

「は、へ?はわ、あの」

「あ……すみません。突然話しかけてしまって。びっくりしましたよね。今日は人が少ないから思い切って聞いてみようと思って。良かったら座って話しませんか」




誰か説明してくれ。

何故私はイケメンの隣に座っているのだ。

イケメンは「最初に視線を感じたのが……」とか何か言ってるけど全然頭に入ってこない。

何言ってんだこのイケメン。

そんな事よりも何故イケメンは私にずっと話しかけているのだ。

論点はそこだ。

何故接点が生まれた。

激モブ女子高生が崇高なイケメンと関わっているこの状況に問題がある。

何か目的があるのか。

金か?いや、でも何で私なんだ……?



「あの、聞いてますか?」

イケメンが私の顔を覗き込んだ。

「ひゃいっ!」

何て精神攻撃力の高い顔面なんだ。突然そんな整った顔を間近で見たら致命傷だろうが。

「すみません。またびっくりさせてしまって」

申し訳なさそうに俯かせてしまった。

ダメだ。今はちゃんと会話をしよう。そして何故私に声を掛けたのか理由を確認しよう。

「い、いえ。こ、こちらこそすみません。えと、もう一度お話聞かせてもらっても良いですか」

「え?また?えーっと……」

一呼吸おいて、また説明をし始めた。

「仕事が転勤になって電車で通う事になったんですが、その頃から視線を感じるようになって。最初は自分の思い込みと捉えていたんですが、周りを見ると、みんな俺の事を見ていたんです。目が合うと目を逸らされて、ヒソヒソと話し声もして、何だか俺の事を言ってるんじゃないかって思ってしまって」

イケメンは私の方を見た。

「俺ってそんなに変ですか?」




あ、あああ~~。そういう感じ?

「……変ではなくて、お兄さんがイケメンだからじゃないですか?」

「え?いや、俺は真剣に悩んでるんですよ。そんな冗談ではなくて」

「本当にお兄さんはイケメンなんですよ。友達とか周りから言われなかったですか?」

「……そういえば、職場仲間からは『モテるんじゃないか?』って聞かれた事はありますが、実際に女の人から告白されたとか、そういった事はないので、あれも冗談だと」

「まさか付き合った事もないんですか?」

「はい」

「女の人が放っておかないと思いますけどね~。あはは」



オイオイオイ、ここに野生のイケメンがいるぞ。

女ども、よく聞け。ここに野生のイケメンがいるぞ。




「よく考えてみれば、俺は中学高校と男子校だったんですよね。高卒で働いてて、職場も男が多いから女の人と関わる事自体が少なかったかもしれません」

顎に手を当て、真剣に考えるイケメン。絵になる。

「あの、何で私に訊こうと思ったんですか」

「俺の事を一番見てたからです。目が合っても逸らさずに、瞬きもせずにずっと見てたから」

「あれ?そんなに見てましたっけ」

「はい。それも一度でなく何回も。最初の頃は見てなかったのに急に俺を凝視し始めるから逆に心配になりました。目が充血してたみたいだし」

全然気付いてなかったんですけど。最近、目に痛みが走るのはそれが原因か。

なんて不潔な生態系。


「ありがとうございました。理由が分かってスッキリしました」

お辞儀をするイケメン。絵になる。

「いえ、こちらこそ何かすみません」

穢れた目つきで見てしまい、と心で付け足した。

「それじゃあ、私は次の駅で降りるので」

「土曜日も学校があるんですね。頑張ってください」

イケメンはにっこりと笑った。


その笑顔、言い値で買おう!いくらだ!




駅を降りてからは、何だか上の空だった。

さっきの出来事は現実だと分かっているが、どこか不思議な感覚だった。

補習を受けるために今日学校に行ったのに、補習中はイケメンの事しか考えてなかった。

何で補習受けてんだろうか。

そうか、イケメンに会うには補習を受ける必要があったんだ。

深いな、補習の存在意義。




家に帰って少し気持ちが落ち着いてから、私は思い出した。

あの人は大学生じゃなかった。高卒で仕事をしてるって言っていた。

何の仕事かな。

いつも何の本を読んでいるのかな。

いつも何の音楽を聴いているのかな。


何であの時、聞かなかったんだろう。

話す時間は限られていたけど、聞きたかった。

でも、別れ際に「またお話しましょう」とか、そういった事を言わなかった。

あの人も「また会いましょう」とか、そういった事を言わなかった。

もう話しかけてくれないかも。

こっちから話しかける?

でも平日は人混みで近くまで移動する事も難しいし、とても話しかけられない。



あの会話が最初で最後か。

何だか急にとてつもない後悔の念に駆られた。

……まあ、いいや。今まで通り同じ車両にいれば目の保養でイケメンを見続けられるのだから。

但し清純な目で。穢れなき清純な目で見るようにしよう。

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