呪いのサイト(3)
店内にいたのは、ショートボブに大きな目をした、二十代後半くらいの女性だった。茶色のワンピースを着ている。あまりに普通の女性にしか見えず、光琉はかえって警戒心を募らせる。
「ライトさんかしら。」
ライトとは光琉のハンドルネームだ。女性は光琉をじっくりと観察する。
「はい。」
「もっと年上の方かと思いました。お若いのに随分と辛い経験をなさっているのですね。」
光琉は安心した。疑われているわけではなさそうだ。
「僕は本気であいつに復讐したいのです。利き腕を奪われたのだから、それに見合った報いを与えたい。」
光琉は熱を込めて訴える。
「もし嫌でなければ、右腕を見せて下さいますか?」
光琉は手袋を外し、袖をまくった。安物の義肢が姿を見せる。女性は軽く義肢に触れる。
「ありがとうございます。こういう事をしていると、自分が被害者でもないのに、相手を呪おうとする方もいらっしゃるので、確認させて頂く決まりですの。不快な思いをさせてごめんなさいね。」
光琉は嘲笑を隠した。本当にそう思っているのなら、事実確認をすべきだ。こんな事では何の証明にもならない。
「当然のことですよ。あいつが裁きを受けるなら安いものです。」
光琉は袖を下ろして手袋をつける。
「それで、どのように呪うのですか。」
「ごめんなさいね。今日は顔合わせだけですわ。詳しいお話は次回にしましょう。次回は相手の持ち物を用意して下さいね。」
女性は紅茶を啜る。
「先生、犬を飼っておいでなのですか。」
女性はカップを置き、服を確認し始める。
「何故そう思ったの?」
光琉は身を乗り出して女性の肩に手を伸ばし、金色の毛を摘まみ上げる。
「これですよ。犬の毛でしょう。」
「あら、見覚えがないわ。何処で付いたのかしら。」
女性は安堵の表情を浮かべる。
「またお会いしましょう。きっと相手の腕も使えなくなると思いますよ。そうだ、最後に顔だけ見せて下さいませんか。」
光琉は帽子とサングラスを外す。白い髪と血のように紅い瞳が露わになる。女性は顔色を変える。
「どうかなさいましたか。」
「いえ…珍しい色だったから、つい驚いてしまって…。失礼しました。」
光琉はサングラスを掛ける。
「よくあることですよ。昔からこの容姿のせいで虐められてしまって…。でも先生のお陰で復讐出来そうです。ありがとうございます。それでは。」
「さようなら。」
「どうだった。」
小麦はテレビを眺めながら言った。
「黒ですね。あの反応はウェアウルフか、その関係者です。血酒石との関連はまだ分かりませんが。次は小麦様がいらして下さい。」
「ウェアウルフだとしたら尚更、血酒石を確認するまで動けないな。」
小麦は気だるそうにチャンネルを変える。
「そんな…。」
「私も近くまで出向いてやろう。何かあったら電話しろ。」
光琉は待ち合わせ時間より前に着き、ぼーっとしていた。目の前を歩いていた鳩が一斉に飛び立つ。
「お前、どうして姉さんに近付いた。何が目的だ。」
光琉は唐突に胸ぐらを掴まれ、混乱する。相手は黒髪の男性で、ウレタンのマスクを着けている。とても背が高い。