呪いのサイト(2)
光琉は慌てて小麦を追い駆け、女子高生に言った。
「すみません。小麦様は少し浮世離れしたお方でして…。僕らはこういう者です。」
光琉の差し出した名刺には、『超常現象相談所、ヤマガミ』と書かれていた。女子高生は胡散臭そうに顔を見合わせる。
「話だけでもお聞かせ下さいませんか。お時間は取らせません。此処ではなんですから、喫茶店にでも行きましょう。」
四人は喫茶店に入った。奥の席に座り、コーヒーを四杯頼む。
「さて、サイトの話をして頂けますか。」
話をまとめると、呪いのサイトということだった。まずはそのサイトに呪いたい相手の名前を入力する。その後、呪いたい理由を入力する。怨みが深そうな順に運営者から連絡が来る。指定された日時に会いに行くと、運営主から面談される。数日後、高確率で相手は事故や事件に巻き込まれるという。その程度はまちまちだそうだ。
「運営主から何か渡されたという話はないか。例えば呪いのグッズだとか。」
小麦は言った。女子高生は顔を見合わせる。
「ウチらそんな詳しくないから。前からあったサイトだけど、最近アツイって聞いただけで。」
光琉は微笑んだ。
「十分有益な情報でしたよ。ご協力感謝します。」
「あ、あの…。」
女子高生はもじもじしている。
「連絡先を教えて下さい。」
可愛い。赤くなりながら頑張って頼んでいる様子が、可愛さに拍車をかけている。光琉は内心喜んだ。女子高生の連絡先は宝石並みの価値がある。
「お願いします。小麦さん。」
光琉は顔を引きつらせる。小麦はここぞとばかりの勝ち誇った顔を見せつける。
「断る。何かあったら事務所に連絡しろ。じゃあな。」
光琉は敗北感に打ちひしがれながら、小麦の後ろを付いて行った。
「悪かったな。初めて人間の女からモテたと思ったのに、幻想を打ち砕いてしまって。一瞬期待しただけに惨めだろう。あれほど醜態を晒してよく平気だな。」
小麦は嫌味をまくしたてる。
「蒸し返さないで下さい。大体、小麦様がおかしいんですよ。女のくせに女にモテるなんて。」
光琉は言い返す。
「私の魅力は万人を惹きつけるということだな。」
光琉は勝手に言っていろと思いながら家の鍵を開ける。
光琉はパソコンを立ち上げる。例のサイトに入り、調べ始める。
「遅いぞ。早くしろ。」
「片手でタイピングしているのですから、そんなに早くは出来ませんよ。」
光琉は左手で呪いたい相手の欄に『長谷川光琉』と入力する。
それから数日後、光琉の元に運営主からの連絡が来る。
「来ましたよ。さあ小麦様、確かめてきて下さい。」
「馬鹿か、お前が行くのだ。」
小麦は口の端に付いたクリームを舐めながら言った。
「何を仰います。僕一人で行ってどうしろと?小麦様がパパっと片を付けて下さいよ。」
「本人が来るはずがなかろう。私が行くと警戒されて元を辿れぬと言っているのだ。そう心配せずとも、まだ疑われてはおらんだろう。」
光琉は内心舌打ちした。変な所で鋭い。確かにその通りだけど、狼の口の中に飛び込むだけの理由にはならない。
「せめて近くで見守っては頂けませんか。」
小麦は低く唸る。光琉は諦めて帽子を被り、指定された喫茶店に向かう。