呪いのサイト(1)
「いらっしゃいませ。」
ファミレスに入ってきた異様な二人組は、客の視線を集めた。
一人は黒髪のボーイッシュな少女で、縦に縞の入った藍色の着物を着て、下駄を履いている。十代前半くらいだろうか。黒髪で左目は隠れているが、右目は獣のように猛々しい金色で、切れ長の瞳孔が異彩を放っている。
その数歩後ろを歩いているのは、十代半ばくらいに見えるのに、白髪で色白の少年だ。シャツとズボンを着て手袋をはめているが、背広は着ていない。日差しが強いわけでもないのに、暗い色合いのサングラスを掛けている。
「ステーキのレアを二つとパンを二つ、あとサラダを二つ下さい。」
少年はテキパキと注文した。少女は金の瞳で少年を睨む。
「光琉、サラダを二つも食べるのか?」
「まさか。そんなに食べられませんよ。これは小麦様の分です。どうか野菜もお召し上がり下さい。」
小麦はあからさまに顔をしかめる。
「野菜など食わずとも死なん。それに、食事についてお前がとやかく言えた立場か?偶には一人前くらい食べろ。」
光琉は苦笑する。
「屁理屈はお止め下さい。僕は食べないのではなく、食べられないのです。小麦様は違うでしょう。サラダを食べないのであれば、デザートのパフェはなしです。」
早速サラダが二人前運ばれてきた。光琉は一つを自分の方に引き寄せ、もう一つを小麦の前に押しやった。
「お先にいただきます。」
光琉は優雅に食べ始めた。小麦は嫌そうにトマトを一口齧り、フォークを置いた。
「もう少し頑張って下さい。パフェが食べられなくても良いのですか。」
光琉は意地悪く笑う。小麦は低い声で言った。
「覚えていろ。店を出たら、デザートの代わりにお前を喰ってやる。」
光琉は水を噴き出した。むせながら低い声で言った。
「その言い方は語弊があるから止めて下さいよ。それに、僕は小麦様の健康を気遣って申し上げているのですからね。」
ステーキとパン、二人前が到着した。光琉は全部小麦の方に押しやった。本を開いて読み始める。
「え?本当にコバ先が手を怪我したわけ?」
向かいの席から女子高生の大声が聞こえる。光琉は本を開いたまま聞き耳を立てる。
「シーッ。声が大きいって。やっぱりあのサイト本物じゃない?誰かがアイツを呪ったんだよ。」
「いい気味じゃん。もう殴られなくて済むし。」
飲み物を啜る音が聞こえる。
「コバ先はいいの。サイテーな教師だし。でも誰かがウチを呪ったら困るよ。怖くね?」
もう一人は怖がっている。
「偶然っしょ。誰かの怨みを買うようなことしたん?」
「多分ないけど…。」
光琉は依然としてステーキに齧り付いている小麦に言った。
「どう思われますか?」
「レアにしては焼きすぎだな。」
小麦は平然と言った。光琉は語気を強める。
「誰がステーキの感想を訊きましたか。向かいの会話ですよ。もしかしたら『石』が関係しているかもしれないですよね。」
小麦は最後の一切れを頬張ると、スッと立ち上がった。女子高生の所まで行き、尊大に言い放つ。
「その話、詳しく聞かせろ。」