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彼と片想いとアンビバレント

2話目です!


友達が大嫌いで、でも好きな男子高校生の話です。

 大嫌いなあいつをいじめていた僕は、ある日あいつをますます嫌いに、でもますます好きになる。いったいなぜか、あなたは解りますか。



 高二になる僕には、もう4年もクラスが同じ友だちがいる。中高一貫でもないのに、宇佐美とは不思議な縁で結ばれているのだ。でも、僕は彼が大嫌いだ。彼は、常に僕の一歩先を行っていた。僕はずっと彼に勝てずにいた。


 その日の数学の小テストは、積分の問題だった。僕は、久しぶりに満点を取った。宇佐美は少し注意が散漫しているきらいがある。求積で計算を多めにしなくてはいけない今日ならあるいは……僕の心は人知れず踊っていた。


 「え。なんで宇佐美満点じゃないの」


 僕は小学生のように純粋無垢な笑顔で、彼に話しかけた。


 「……。お前だって満点は今日くらいだろ」


 宇佐美は、ちょっとムッとして返答してきた。やはり彼をいじるのは楽しい。


 「いつも満点を取れない俺でさえ満点が取れたような簡単なテストで、あの満点連発の宇佐美が満点を取れないだなんて、熱でもあるのかな、って思っただけだよ」


 何があっても怒らない宇佐美も、少し機嫌が悪くなってくる。もう少し煽ってやろう。


 「ねえ、調子悪いなら帰れば。俺、風邪とか移して欲しくないんだけど」


 宇佐美があからさまに面倒くさそうな顔になる。そうだろう。こんなに「面白そうな」展開になってしまったら、必ず彼女がやってくる。


 「えっ、宇佐美くん帰るの。送ってこうか」


 クラスにいじりのタネが植えられれば、嬉々として水をやりにいく、あの彼女が来るのだ。そして、彼女は容赦がない。


 「えっ、何で帰らないの。風邪なんでしょ。そうじゃなきゃ満点とれないはずがないもんね。ほら、帰りなよ」


 宇佐美の顔がどんどん曇っていく。しかし、彼は本当に温厚なのだ。激昂するとか、先生に言いつけるとかは、絶対にしない。僕は彼のそういうところも嫌いだ


 「ねえ何でまだ教室にいるの。出ていけよ。早く帰って、優しいお母様のおじやでも食べた方がいいぜ。ほらほらほら、帰れよ」


 憎しみを込めて、彼に罵声を浴びせる。痛快だ。気持ちが心底良い。


 「何か言い返せよ。そんな勇気もないのかよ。それだから彼女もできないんだよ。馬鹿」


 この調子で昼休み中いじってやっても、彼が帰ることはなかった。とことん嫌な奴である。6限が終わって、僕は一目散に家に帰る。帰宅部に放課後はないのだ。部活に充実している彼とは違って。


   *  *


僕 「なあ、今ひま? 少し電話していい?」


彼 「まあ明日朝早いから1時には切るけど、それまで2時間くらいでいいなら」


僕 「2時間もいいんか。やっぱお前優しいな。普通朝早いなら零時には切るでしょ」


彼 「君ももっと優しくして欲しいね。いい加減、お前のこと嫌いになるよ」


僕 「ええ、嫌だ。なあ、宇佐美、俺と付き合ってくれよ。お前のこと、好きなんだよ」


彼 「またそれか。それは嫌だって言ってんじゃん。それに俺、好きな人いるし」


僕 「え、まじ? 誰? 教えてよ」


彼 「嫌だよ、それ知ったらお前絶対学校でいじるじゃん。俺いじられるの嫌だもん」


僕 「絶対いじらないから。な?」


彼 「嘘つき。そう言って何回もいじられてきたから。もういじめだよ。いい加減、何とかならないの」


僕 「いじめたくていじめてるわけじゃないんよ。こう、つい口から出ちゃうというか。僕さ、人を貶すことでしか、自信を保てないんよね。ごめん、ほんとう、ごめん」


   *  *


 次の朝、僕は泣きながら登校した。前から何度も決意していたが、今日こそは学校で何も言わないようにしよう。いつもなら、言葉の針をぷつりと刺せばアイツも破裂するかもしれない、なんて考えて緩んでしまう口に、今日こそ大きな栓をするのだ。


 あれ。僕、普段学校で何をしていたっけ。人をいじることを失った僕に待ち受けていたのは、ただ果てしなく広がる孤独だった。相手に殴りかかるパンチでしか相手の間合いに入ることができない僕である。みんなからは、誰かをいじるノリのいい奴だと思われているが、ノリが良いから誰かをいじれるのではなく、誰かをいじるしかできないからノリが良いと思われているだけの僕である。そして、友達と馴染む手段を失った僕には、学校に行くメリットのかけらも残っていない。勉強をしても、宇佐美との差に落ち込むだけだ。


 よく、虐待のニュースを目にするが、僕が親から受けたことが虐待だとは、思っていない。なぜなら、昔も今も親のことは大好きだからだ。しかし、母親からの飛び蹴りが、構ってくれない父親が唯一発する「おはよう」が、僕が受けた愛情のすべてであることに変わりはない。思えば、僕は優しい感情を知らない。


 クラスに居場所がないのなら、僕には学校にいる価値がない。部活に入ればよかったな、ふと、そう思った。しかし、キラキラした顔でバスケをしている人たちに馴染める自分だとは、到底思えなかった。ああ、部活に行こうとする宇佐美が目に付く。


 「お前さ、大して上手くもないくせに毎日部活に行きやがって。そんなんだから小テストの成績も下がるし、彼女もできないんだよ」


   *  *


僕 「ごめんな、暴言吐かないって決めたばかりだったのに」


彼 「良いよ、慣れてるし」


僕 「やっぱ、僕のこと嫌い?」


彼 「うん、嫌い」


僕 「ねえ、好きになってくれない? 僕、やっぱり君が好き。いや、好きにならなくて良い。付き合ってくれるだけで良いから。一緒にデートに行こうよ。周りから見れば、男友達同士遊んでるようにしか見えないよ」


彼 「ごめん、好きな人がいるから」


僕 「そっか。でも、じゃあ何でそんな優しくするんだよ。そうやって誰彼構わず優しくするの、よくないよ」


   *  *


 行く価値のない学校にまた行く。相も変わらずクラスメイトたちは、僕がどうしようもなく嫌な奴だとは気づいていない。だから、宇佐美だけは僕をわかってくれていることになって、僕は彼が好きだ。しかし、そんな特別な相手でも、いや特別な相手だからこそ、いじめるのをやめられない。そして、今日も宇佐美をいじり倒す。


 宇佐美は堪えたように、昼休みになると屋上に逃げ込んだ。僕は、宇佐美をこっそり付けていった。付けて、行かなければよかった。宇佐美が、女の子に慰められているのを見てしまった。しかも、仲良さそうに。あっ。また見てしまった。あいつら、付き合っていたのか。


 フるときですら、恋人がいるとは言わず希望を持たせてくれる宇佐美の優しさに、僕はますますあいつを嫌いになった。とはいっても、今恋人に向けている笑顔を僕に向けてくれたら、と考える僕は、その優しさをますます好きになっていたのだろう。



 好きで、嫌いだ。嫌いで、好きだ。ああ、心がそよぐ。僕の心は、揺れ動いて仕方がない。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


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