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葉書と手紙とキュー・イー・ディー

16話目です!


絵葉書をやり取りする男女の話です。

 多羅葉という木がある。この木の葉の裏面を擦ってやると、そこが黒変して文字が書けるのだという。風説曰く、これが「葉書」という言葉の端緒である。葉書。我々が、日常に肉筆をしたためなくなってから、どれくらい経っただろう。私が小学生だった時分には、まだラヴ・レターという文化があった。自然の理をその身に背負う3.14という数字で表されたあの日、少女漫画じゃないんだから、と逸る心をたしなめて下駄箱を覗いた自分は、まだ主人公になれるかも、なんて勝手な理を胸にしていた。え、結果はどうだったかって?どうだったでしょうね。中学校に上がって、友達はみんな携帯電話を手にし始めた。ちょうどスマートフォンが人口に膾炙し始めた頃である。中学二年生、私が初めて受けた告白は、メッセージアプリの上でのことだった。「好きじゃ」という一言に返信するために、私は丸一日を費やした。「既読」の文字はとっくに表示されていたというのに。


 思うに、SNSは翻って私たちの交友関係を希薄にしている。そりゃそうだ。繋がる人の数が増える分、一人あたりに費やせる時間は短くなる。青い鳥が囀っていなければ、彼奴が夜に読んでいたのは、ウケを狙った知らない誰かのつぶやきではなく、私が貸した流行りの小説だったのかもしれない。


 愚痴っていても、仕方がない。まずは私から世界を変えていかねば、と思ったのは僅か数時間前のことで、旅先のお土産物屋で絵葉書を見つけたからだった。私は今、伊香保温泉に来ている。与謝野晶子が詩を詠み、徳冨蘆花が『不如帰』の舞台にとったこの街で、私も何かしらを書きたくなった。そんな先に見つけた絵葉書である。直筆に宿る情緒というものを彼奴に送りつけてやろう。この石段の上から見える飛び切り美しい景色を彼奴に見せつけてやろう。ものぐさだったはずの私のやる気は、すでにトップ・ギアに達していた。


拝啓

 恭しい文章を書くのは初めてですね。

 私も書きながら緊張しています。

 金木犀の甘い香りに心弾む季節となりま

 したが、お元気でしょうか。大学に入り

 たったの半年ですが、貴方が恋しいのか

 うら寂しい日々を託つ今日日です。

 そういえば、9月の連休に少し用事があ

 ってプチ帰省をしました。高校時代の行

 きつけだった場所も、今となっては昔の

 声を想い出に聞くだけです。初詣でのこ

 ろにまた帰るので、二人で勝手に同窓会

 することにしましょうか。ではまた。

                 敬具


**


 絵葉書をポストに入れてから五日、私はもう東京に帰っていた。大学生活というものは、楽しさと同じくらい忙しさを抱えるものらしく、毎日がてんてこ舞いといった形で、彼奴に送った葉書の存在は、ほとんど忘れていた。しかし、アパートの、今のご時世名字さえ書いていない郵便受けを覗いたとき、先週の記憶は一秒と待たず蘇ることとなった。返信が、来ていた。しかも、葉書で。律儀な奴である。こういうところがあるから嫌いになれないんだよな。私は自分の都合の良い女っぷりにやや辟易しながら、裏面の手紙に目を通した。

 五秒、たった五秒だった。


前略

 お手紙ありがとうございます。

 まだ僕のことを覚えていてくれたなんて

 笑顔が収まらないくらい嬉しいです。貴女

 が浮気していること、僕は知っているよ。

 白々しい恋文なんて書き連ねやがって。

 根暗なお前には相応しい趣味をしてるね。

                  草々


 五秒、それは私が恐怖で立てなくなるまでの時間だった。この手紙は、ただ私を誹る罵詈雑言を並べたものではない。彼奴は、私のメッセージをちゃんと受け取っていた。帰省した時、私が見たのは彼が可愛らしい女の子と歩いているところだった。ちょっと嫉妬した私が馬鹿だった。恋は盲目。きっと彼女はただの女友達だったのだろう。彼にしても、盲目である。何かにつけて東京に出てきて、私が男友達といるところでも見てしまったのだろう。わざわざ上京先まで偵察に来る男が、しかも浮気を疑っていた彼女に自分の愛を疑われてしまった男がすることなんて、一つに決まっている。


 「僕のこと好きなら、証明してよ」


 目の前に彼奴が立っていた。先にやきもちを焼いた私が悪かったということだ。結局、彼奴と私は似た者同士なのである。え?なんか話が飛んでいて分からないって?なら、二人の手紙を一行ずつ、頭文字の一音だけ読んでいってごらん。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


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