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健一と篤郎と颯太

12話です!


女子高校生に恋をする三人で一人の男の子の話です。

 健一は、今日も美佳と川べりを歩いていた。美佳とは幼稚園の時からの腐れ縁で、市内を流れる川に沿って話しながら帰るのも、もう十年以上続く慣習だった。当然、健一はクラスメイトにからかわれる。お前、ミカと付き合っているのかよ。健一は毎度のごとくかぶりを振るのだが、学級検察の追及は手厳しい。幼馴染が付き合うなんて、漫画の幻想だっつーの。ただ、健一も意識していないわけではなく。


 「美佳さ、高校で好きな人出来たりした?」


 篤郎は今日も美佳を射止めることに余念がないのであった。


 「ん〜。友達はできたけど、まだ好きではないよ」

 「そっか。俺だったら美佳みたいな可愛い子、放っておかないけどな」


 美佳は冗談として笑っているが、篤郎の心拍数は恐らく120を超えている。かれこれ五年も口説いているつもりの篤郎だが、慣れてしまった美佳には暖簾に腕押しだ。いっそクラスのみんなに交際を宣言して、既成事実にしてしまいたいな、なんて篤郎は思うのだが、そんなことは到底不可能だった。しかし、今日は美佳もノってきたようで、篤郎の眼は輝きを取り戻す。


 「かく言う君は好きな人いないの?」

 「もちろん、ずっと美佳ねえが好きだよ」


 颯太は嬉しそうに無邪気な声で美佳に返事をした。なにせ、颯太にとっては物心ついた時からお世話になっている美佳だ。


 「嬉しいな、颯太くん。私も好きだよ」


 逆もまた然りで、美佳も颯太を邪険に扱ったりはしない。成長を見守ってきた颯太のことを、どこか愛おしくも思っていた。


 二人のデートは、美佳の家に着いたところで終わりになる。美佳の家は豪邸だ。川を背に、和洋を織り交ぜた建築が立ちはだかる。健一が、告白の一歩を踏み出せないでいるのも、ひとえに彼女の家の厳しさにあった。


 その夜、雪が降った。十二月二十三日の晩である。篤郎は、次の日に美佳と遊ぶ約束を取り付けていたが、これは好機だと思った。ホワイト・イブイブに告白して付き合ってイブデート。自分はなんて幸運な中学生だろう。篤郎は一人舞い上がっていた。彼は、行動に移す男である。篤郎は家を飛び出して、美佳の家に駆けた。


 ピンポーン。呼び鈴を鳴らす。


 「はい、どちら様でしょうか」

 「どうもです。篤郎です」

 「ああ、健一くんね。何か用かしら」

 「美佳さんに少し、話があって」

 「ああ、わざわざ来てくれて悪いわね。でも、もう遅いからねえ。また明日学校で会うでしょ。その時に話してもらうってわけにはいかないかしら」


 やはり、美佳の家のガードは固かった。ただ、篤郎もここまでは想定済みだ。


 「はーい。夜分遅くに失礼しました」


 適当にやり過ごして、家の裏手に渡る。家の後ろを流れる川は、美佳の部屋の真下辺りで、狭く浅くなる。ズボンを捲り上げて川の中ほどまで進み、篤郎は大声を出した。


 「美佳! 出て来いよ! 話があるんだ」


 少し物音がして、美佳は篤郎の方に、ひょっこりと顔を出した。


 「話って、何」

 「美佳、お前が好きだ。付き合ってくれ」


 篤郎の行動に迷いなんてものは一秒たりとも存在しない。そしてこの時ばかりは、前から答えを決めていたのか、美佳の返事にも迷いはなかった。


 「ごめん、篤郎。私は三人同時には付き合えない。一人だけ、一途に恋をしたいの」


   *  *


 健一は、酷い虐待を受けていた。もちろん、自分では虐待だなんて思っていない。大好きなお母さんが、何故か叫声をあげて殴ってくる。蹴ってくる。ご飯も、たまに出なくなる。お母さんに嫌われているのだと思った。好かれなきゃいけないと思った。健一は、母親が大好きだった。無口でおとなしい自分が可愛くないのだと思って、お喋りで元気な篤郎が生まれた。健一と篤郎は、心の中で親友として生きてきた。学校では健一が頑張って勉強。放課後は篤郎が友達と過ごす。二人の役割分担は、いつだって完璧だ。しかし、こんな生活には、いつしかボロがやってくる。中学生の時、人格が二つあることが学級中にバレて気持ち悪がられ、いじめを受けるようになった。二重人格というのは、小説の中だけに都合よく存在する設定ではない。解離性障害という、立派な精神病だ。病気は適切に治療を受けないと、次第に重篤化する。健一と篤郎の下に、気付いたら颯太がいた。退行。嫌なことから逃れるために、精神を幼くする防衛本能の一つである。そして、颯太は美佳に気に入られ、すくすく成長した。しかし、人格は三つも確立されてしまった。このような場合、解離障害が自然治癒する確率は、ほぼゼロと言って良い。


   *  *


 その夜は、まさに奇跡だった。


「僕は美佳ねえが好きだけど、お兄ちゃんたちの方が大好きだから」


 美佳の告白を受けて、颯太は突然姿を消した。健一と篤郎は衝撃を受けた。そして自分たちが真っ当に生活出来る可能性を、認知することが出来た。篤郎は決意を固めた。しかし健一と篤郎は親友である。健一も、同時に願った。


 「なあ、俺たち、二人合わさることって、無理なのかな」


 雪降る夜、一人の青年が生まれ変わりを遂げた。普段は物静かで、真面目で、でも遊びに誘うとノリが良くって楽しいやつ。皆さんの周りにもいませんか。健一は、そんな青年だった。しかし、それは分業の為せる業だった。少なくとも、子供の頃の彼にとっては。しかし、彼は高校に進学し、好きな人も出来ていた。大人として、男として、成長する心の器は出来上がっていた。


 健一は、凍り始めた川を数歩進んで、声を張り上げた。


 「健一と、付き合ってください」

 「篤郎くんと颯太くんは、それで良いの」


 声にも帯びる美佳の不安を払拭するように、健一は落ち着いた声で続けた。


 「安心してよ、ミカねえちゃん。篤郎は僕の中で君を愛するんだ。二人とも、幸せにしてあげる」


 その答えに安心したかのように、ミカは笑って肯定の頷きを示した。

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