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部長と月とコーラスライン

11話目です!


演劇部の部長に恋をする男子中学生の話です。

 「友達」とは、人生のコーラスラインだ。


 僕が演劇部に入ったのに、理由なんてなかった。強いて言えば、砂を噛むように味気がなかった中学時代から抜け出して、スポットライトの光の中に入りたかったのかもしれない。そんな湿っぽい僕でも、人並に恋はする。胸を焦がした相手は、傲慢にも部長だった。彼女は月のような人だ。世界中で月のクレーターの見方が違うように、彼女に対する評価はまちまち。しかし、誰もが彼女を肯定的に見る。すなわち、彼女は各部員それぞれに最適な接し方を選び、演じきっている。みんな彼女が好きだった。でも、僕だけは知っていた。そんな彼女を照らす太陽は未だ存在しておらず、日々彼女を忙殺している諸々について、愚痴を聞いてくれる相手に困っていることを。自分も悩んでいるくせに、みんなのためにと苦心する部長がどうもいじらしくって、僕は彼女に恋をした。


 「ねえ部長、ホリの照明ってどう作ればいいの?」

 「今日はエチュードやらないの?」


 一計を案じた僕は、生意気キャラを演じていた。つまり、「部長を慕っているその他大勢」から抜け出してやろう、というのが僕の目算だ。それに、タメ語だと仲良い感じが出るでしょう?


   **


 私が部長になって半年、ついに後輩たちがやって来た。いよいよ責任も重くなってきたものである。私だって、役者だ。舞台に立つ時は役に入り込みたい。いや、役そのものでありたい。舞台全体の責任が頭にチラつくのは、まっぴらごめんだ。なんて思ってしまうのは毎日のことで。私がやるって言ったんじゃない。部長は代々舞台監督だったけど、私は最後まで役者がやりたいですって。そういって、毎回襟を正し続けて来た。


 私は太陽のような人になりたかった。周りの人を照らして笑顔にしてあげるような、真っ赤な太陽になりたかった。だから、友達にも、もちろん部員にも、極力親身に接することにした。その人にとって、最も頼りになるような人を目指して。その人の心を出来るだけ考えて。私だって、役者だ。


 そんな私にも、一人だけ心を読みきることができない人がいた。その人は部活の後輩くん、一年生だった。年下のくせに。後輩くんはやたら生意気で、何かにつけて私に突っ掛かってくる。先輩に敬意を示さないなんて、人を傷つけないように小さい頃から空気を読み続けて来た私には、到底考えられないことだった。気が付けば、彼をどうするべきか考えていた。大人になった時に疎まれないよう、今のうちに叱ってあげるべきか、それとも演劇部という場を楽しんでくれるように、優しい先輩のままでいてあげるべきか。彼は私の悩みの種だった。


   **


 気が付けば夏合宿も終わって、二学期が始まっていた。あと一ヶ月もすれば文化祭である。僕は、意を決して先輩に告白することにした。シチュエーションはどうするべきか。僕の頭は授業なんか受け付けず、そんなことばかりを四六時中考えていた。本当は演劇部らしく、千穐楽の舞台の上でバシッと告ってやりたかったのだが、悲しいかな、入りたての一年坊主に与えられたのは、舞台の後ろでメーン・キャストを支えていくコーラス隊の役目だった。コーラスライン。舞台には一本のテープが無情にも引かれている。曰く、我々コーラス隊は主役たちの迷惑にならないよう、この線の後ろで歌ったり踊ったりしなくてはならないらしい。結局僕の恋愛劇の最終場面は、文化祭の後に持ち越されることになる。


 月曜日、後片付けの日、僕たち演劇部は舞台のバラシを昼過ぎに終えて、打ち上げに来ていた。場所は、学校から3駅離れた繁華街。カラオケからボウリングへとはしごするのが、我が部の伝統らしい。チャンスだ。僕は思った。


 「部長!ボウリングで最下位になったら罰としてファミチキ奢ってよ」


 部長は誰よりも張り切るくせに、誰よりも運動音痴だ。この噂は部長の友達から前々のうちに仕入れておいた。ちゃんと奢ってくれるかどうか不安だから、僕も部長に付いてくね。そう言って、この後どうするかを話し合っているみんなから、そっと離れる。半年間の仕込みのおかげで、みんなは呆れ顔で見送ってくれた。


 「部長、ファミマは向こうだよ」


 なんて適当な理由で、僕は部長の袖を引張って走り出す。まだ、彼女の手は握れない。数分走って、駅の南口にある、そこそこ綺麗でそこそこ静かな公園に着いた。少々の妥協はあるが、まあ許せる舞台だ。というより、ここを逃したら他に機会はない。なんてったって、この文化祭を以って部長は引退してしまうのだから。戸惑ったままの部長に向かって開口一番、


 「先輩、好きです。付き合ってください」


初めての敬語で、僕は思いきり言い放ってやった。


   **


 どうやら、私は後輩くんのことを、好きになってしまっていたらしい。そりゃそうだ。春からというもの、ずっと彼について考えていたのだから。でも、まさか彼が、私のことを好きだったなんて。最後まで彼の心は読めなかったなあ。そう、これで最後だ。私はこの告白を、受けたりしない。私はこのまま受験勉強に入る予定なのだ。進学先の大学も、彼とは違うかもしれない。彼に寄り添いきることのできない私が、彼の大事な大事な青春を邪魔してやるわけにはいかない。


 「いつも通りタメでいいよ。返事は、ごめん。でも、これからは、後輩から友達になってくれない?」


 ちょっぴりの未練を伝えた後、私は彼の前から逃げ出した。私は、役者になりきれなかった。頰には涙が白く伝っていた。


   **


 「友達」とは、なんと乾いた言葉だろう。所詮僕は、彼女の物語のメーン・キャストになることはできなかった。コーラスラインから出ることはできないのだ。「友達」、この言葉は人生という戯曲の中では、「コーラスライン」というルビが振られているに違いない。

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