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魔女の末裔~新米メイドの王宮事件簿~  作者: 晶雪
第三章 新米メイドの王宮事件簿
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69 警官隊本部にて2

 救国の英雄のご登場に、ユナもまた驚いた顔をした。

「え、なんでここに?」

 クロサイト様の長身をしげしげ見上げ、

「ってゆーか、私服。珍しくない? いつもは非番の日でも制服着て仕事してるじゃん」

 その打ち解けた遠慮のない物言いからして、2人は顔見知りだったようだ。


 クロサイト様はユナのセリフには答えず、私の方を見て、丁寧に一礼した。

「つけて参りました」

 ……態度はともかく、言葉の内容はあまり穏やかではない。

「つけて?」

「はい。帰るフリをして、ひそかに」

「…………」

 無言になる私に、クロサイト様は無表情のまま説明を付け加えた。

「自分のような無骨者がそばに居ては、休日を楽しめない。ならば、影ながら護衛すべきだろうと」

「それは……、お気遣いありがとうございます……?」

 そうまでして、自分ごときを護衛してくれたことに感謝すべきなのか。

「あいかわらずの仕事中毒だね。端から見たらストーカーっぽいよ、それ」

 あるいはユナのように、ちょっと引いてもいい場面なのか。


 私がアゲートの部下に捕まった場面も、クロサイト様は陰から見ていたそうだ。「状況次第では踏み込むつもりでしたが」、そうする前に、警官隊が来た、とのこと。

「おケガもないようで、何よりです」

「……はあ。ご心配おかけしました……」

 私の言葉に「いえ」と小さく首を振り、「時間も押していますので、参りましょう」と踵を返しかける。

「じいさんには会ってかないの?」

 ユナの問いに足を止め、「また日を改めてあいさつに寄る、と伝えてほしい」


 壁の向こうでは、今もジャスパー・リウスのお説教が続いている。ニックはともかく、カルサやカメオにはあいさつしたかった気もするが、無理っぽい。

「じゃあ……、お世話になりました」

 ユナに頭を下げてから立ち去ろうとすると、「あ、待って」と止められた。

「あのさ。エルさんて、クリアちゃんと一緒に住んでるんだよね? カイヤに雇われて」

 クリアちゃん? カイヤ?

「2人、元気にしてるかな。あと、ハウルの奴も」

「えーっと? お元気、だと思いますけど……?」

 いきなり王族の名を呼び捨てにされて、戸惑いながら答えると。

「ユナ。口の利き方に気をつけなさい」

 横から、クロサイト様が注意する。

「あ、そっか」

 ぴしゃりと自分の頬を叩くユナ。

「ごめんごめん。つい昔のクセで。あたしね、あの2人――ハウルとカイヤと、幼なじみでさ」


 ちっちゃい頃は、みんなで剣の稽古とかしたんだよ。ひいじいさんが先生でね。

 ちなみに、あたしが1番強かった。

 幼なじみは他にも居てさ、みんな仲良くて。

 だけど、最近は仕事も忙しくて、滅多に会えないから、気になってたんだ。お城の方とか、色々大変みたいだし。


 ユナは懐かしそうに笑っているけど、私は話が飲み込めなかった。

「えっと、『ひいじいさん』というのは?」

「あ、言ってなかったっけ。あっちで怒鳴ってるご隠居、あたしのひいじいなんだ」

 それからユナは、横に立っているクロサイト様を指差し、「この人は、ひいじいの孫」と続けた。


 警官隊の「生きた伝説」ジャスパー・リウスと、「救国の英雄」クロサイト・ローズが、祖父と孫、というのは初耳である。

 2人とも、王都ではけっこう有名人だし、本当に血縁者なら噂にくらいなっていそうなのに。


 クロサイト様はふっと肩を上下させると、

「私の母は、随分昔に祖父に勘当されておりますので」

 くわしい経緯については語らず、ただ、祖父とはあまり縁がないこと、母親も既に他界し、自分たちの関係を知る者も少なくなったということを、いつものように淡々と説明する。


 思いがけず立ち入った話を聞いてしまい、私は恐縮した。

 クロサイト様は例によって「お気になさらず」だ。目でユナの方を指し、「あまり考えずに思ったままを口にしてしまうのは、祖父から受け継いだ血のせいでしょう」

 ユナ自身は悪びれることなく、

「いや、ごめん。別に隠す必要もないと思ってさ」


「お2人はあの、親戚同士? なんですよね?」

 クロサイト様がジャスパー・リウスの孫で、ユナがひ孫だというなら、両者の関係はなんだ。叔父と姪とか?

「彼女は、いとこの娘です。……そのいとことも、ほとんど面識はありませんが」

「そうなんだよね、親戚なのに」

とうなずくユナ。

「ただ、最近ちょっとだけ付き合いができたんだ。カイヤと――じゃなくてカイヤ殿下と、この人が仲良くなったからね。共通の知り合いを通して縁ができた、って感じ?」

「仲良く、というのは語弊がある。私が殿下にお仕えするようになった、と言いなさい」

 彼にしては珍しくちょっとくたびれたような声で、クロサイト様が訂正する。

「そうだね、ごめん」

と詫びつつ、やはり悪びれないユナ。

 会話が途切れたタイミングで、「では、参りましょう」とクロサイト様が言った。


「またね、エルさん。クリアちゃんによろしく」

 ユナは「また会おうね」と手を振って見送ってくれた。さっき注意されたばかりであるにも関わらず、また「クリアちゃん」だ。

 裏表のなさそうな人だな、と私は思った。

 意志の強そうな、かつ聡明そうな瞳をしていた。空気が読めないのではなく、敢えて読んでいない風にも見えた。

 もっとゆっくり話してみたい気もしたけど……、彼女が殿下の幼なじみだというなら、また会う機会もきっとあるだろう。

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