60 さわやかな朝のさわやかでない出来事3
お屋敷に戻ると、パイラが起きていた。ちゃんとメイド服に着替えてお化粧もして、台所で朝ご飯の準備を始めようとしている。
「あら、早起きね。お散歩でもしてきたの? ……どうかした? 何だか難しい顔してるみたいだけど」
「それが……」
私は散歩の途中に出会った、国王陛下を名乗る怪しい人物について彼女に説明した。
パイラの見解は、「それは本物の国王陛下に違いない」というものだった。「無関係な人が簡単に入り込める場所じゃないしね。それに……、やることがいかにもだし」
「……あのセクハラ親父が、本当に?」
この国で1番偉い人なのか。できれば、何かの間違いだと言ってほしかった。
「セクハラもあいさつみたいなものよ、あの人にとっては」
女の側だけが一方的に不愉快な思いをさせられる行為を、断じてあいさつなどとは認めない。それはともかくとして、
「クリア姫に教えてあげた方がいいでしょうか? 国王陛下が来てたってこと……」
「それはやめた方がいい」
私が言い終えるより早く、パイラはきっぱりと首を横に振った。
「そんなこと聞いたら、多分、気にしちゃうから」
日頃は姿を見せない父親が、なぜ現れたのか、何をしに来たのか。色々考えて、悩んでしまうかもしれない。
「どうせ、気まぐれに姿を見せただけよ。理由なんてない。だけど、うちの姫様は真面目だから、あんな父親でも無視するってことができないのよね」
つい先日、異母姉との間にゴタゴタがあったばかりである。その少し前にも、武装した兵士が庭園を荒らす、なんて事件も起きた。
ただでさえ幼い身でさまざまなストレスにさらされているクリア姫に、これ以上心労をかけるべきではない、とパイラは主張した。
それは全くその通りだと思う。
ただ、あれが王様を名乗る曲者とかだったら困るし、念のため誰かに報告しておいた方がいいのでは?
「それならだいじょうぶよ。カイヤ殿下には、後でちゃんと伝えておくから」
「……わかりました」
そういうことなら、今朝の出来事はクリア姫には言わないでおこうと決めて、私はパイラと一緒に朝ごはんの支度に取りかかった。




