47 お姫様とお出かけ1
翌日は雲ひとつない晴天だった。
もしも天気が悪ければルチル姫の参加する「遠乗り」は中止だろうし、そもそも雨が降っていては本を運べないので、図書館行きも中止のはずだった。
この天気なら問題ない。
私がお屋敷の玄関で、本の入った木箱を台車に積んでいるところに、「待たせたな」とクリア姫がやってきた。
「準備できました?」
「うむ、だいじょうぶだ。いつでも行けるが……。随分大きな箱を持っていくのだな?」
昨夜、クリア姫が自分で用意した木箱の上に、私が用意した空き箱を重ねて乗っけてある。
クリア姫が「大きい」と言ったのはその空き箱の方。「好きなだけ借りていい」というありがたいお言葉に甘えて用意した。大判の本が10冊、いや20冊は余裕で入る大きさである。
「さすがに、ずうずうしいですかね……」
「ああ、いや。そんなことはない」
慌てて首を振るクリア姫。金髪のおさげも左右に揺れる。「ただ、エルが重いのではないかと、そう思っただけだ」
「だいじょうぶですよ。台車で押していくので」
「そうか。ならいいが……」
「それより姫様、その服、可愛いですね」
本日のクリア姫は、お出かけ用の上品なワンピースを着ている。色は紺で、胸元に同色のリボンを結んでいる。
「あ、ありがとう……」
クリア姫は赤くなって下を向いた。
このお姫様、ほめた時の反応が可愛いんだよね。
これが噂に聞くメイド萌えってやつか。……いや、違う。萌える側と萌えられる側が逆だ。
本気でどうでもいいことを考えていたら、「エルの服もよく似合っている」とほめ返された。
「ありがとうございます」
今日から私も、支給されたメイド服に袖を通している。
パイラがきのうのうちに手配してくれたらしく、今朝方お屋敷に届けられた。幸い、私はごく平均的な体型であるからして、お城の倉庫にサイズがあったようだ。
紺の長スカートと白のブラウスで、レースやフリルが控えめについている。
お城勤めのメイドは、行儀見習いの貴族の子女が多いという。だからなのか、いかにも高級なメイドでござい、といった感じのちょっとすましたデザインになっている。
……私は筋金入りの庶民であるからして、何やら服だけが浮いて見えるような気もした。
「正直、変かなー、なんて思っていたので、姫様にほめていただけて嬉しいです」
「変などではない」
クリア姫が気遣ってくれる。
「さっき、兄様も似合うとほめていたではないか」
「あー、言ってましたね。朝ごはんの時」
カイヤ殿下は、メイド服を着た私を見て一言、「よく似合っている」と口にした。いつも通りの無表情だったので、社交辞令だったのか、意外と本心だったのかはわからない。
私は深く考えないことにした。あの王子様と適度な距離感を保つためには、多分、その方がいいと思う。
なお、その殿下は朝食後すぐに出かけてしまったので、ここには居ない。
「じゃあ、私たちもそろそろ行きましょうか?」
「うむ、そうだな」
「お出かけですか?」
ぬれた手をエプロンでふきながら、パイラが奥から出てきた。「それじゃあ、お昼ごはんの支度をしておきますね」
「帰りは少し遅れるかもしれないが……」
クリア姫が言うのを皆まで聞かず、
「はいはい。わかってますから」と苦笑するパイラ。
本好きのクリア姫は、図書館に行くと、本に夢中になって時間を忘れてしまうことがよくあるらしい。
「そういえば、ダンはどこに行ったのだろうか。いつもはこの時間、部屋で寝ていることが多いのに、姿が見えなかったのだ」
パイラは「さあ」と首をかしげた。
「お外で昼寝とかじゃないですか? 近頃すっかり温かくなってきたから、ダンビュラさんもよくひなたぼっこしてるようですし」
「そうか。そうだな」
自分で言い出したわりには、クリア姫はすぐに話を切り上げた。今はそれより、図書館のことで頭がいっぱいなのかもしれない。
「では、行くとしよう。エル」
「はい。姫様」
いざ、王室図書館へ――。
ルチル姫のことが少し気がかりだけど、お出かけ自体は私も楽しみだった。
先々代の国王陛下が建てたという、王族だけの専用図書館。いったいどんな場所なんだろう?




