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魔女の末裔~新米メイドの王宮事件簿~  作者: 晶雪
第二章 新米メイド、王宮へ行く
43/410

42 対立の構図1

「夜までには戻る」と言っていたカイヤ殿下は、その言葉通りに帰ってきた。

 ちょうど私とクリア姫とパイラの3人で、夕食を囲んでいるところで。

 食卓には、ソーセージと季節の野菜の煮込み、お手製ピクルス、焼きたてのパンに手作りジャムと、素朴だが心のこもった料理が並んでいる。

 作ったのはパイラだ。

「エルさんの料理の腕前はわかったから、ここに居る間は、私に仕事させてね」

と言うのでお任せした。

 ……もしかして、自分が作った料理を殿下に食べてもらいたかったのかな。

 もうすぐ仕事を辞めてしまう彼女だ。その機会はもう、何度もないはずだし……。


「うまいな」

 料理に口をつけた殿下は、しみじみ言った。

 さては、また忙しくて昼食を抜いたな――と私は思ったが、クリア姫の手前、口には出さずにおく。

「おかわりもありますよ」

とパイラ。その視線は、殿下の横顔から離れない。

 私は誰にも気づかれないよう、小さく首を振った。

 彼女の恋愛事情について、自分は完全な部外者だ。ここは何も気づかないフリをしておこう。


「昼間の件だが」

 食事が終わり、じゃあお茶を淹れましょうかというタイミングで、殿下が切り出した。

 昼間の件とは言わずもがな、兵士らしき男たちがこの庭園を荒らしに来た件のことだろうけど。

「どうやら、意趣返しのつもりだったらしい」

「……意趣返し?」

 って、仕返し? いきなり物騒な単語が出てきたものだ。

「先日、叔父上がフローラの縁談をひとつ潰した。今回の件は、おそらくその報復だ。首謀者はラズワルドで間違いない」


 ええと、つまり? どういうこと?

 私は昼間パイラに聞いた話を思い出した。

 ラズワルドって……。確か、国王陛下の愛妾アクア・リマを養子にしたとかいう名門貴族。そのラズワルドが、仕返しのために今日の騒ぎを……。


「待ってください。殿下の叔父上様が、フローラ姫の縁談を?」

「潰した」

 事もなげにうなずくカイヤ殿下。


 その叔父上様って、この国の宰相なんだよね。目的のためには手段を選ばないって噂の。

 フローラ姫はアクア・リマの娘で、あのルチル姫の姉でもある。

 彼女に血筋の良い婿を迎えて、将来、その子供に国を継がせたいとか、そういう動きがあるって話を聞いた気がする。それを宰相に邪魔されて――。


「縁談の相手はラズワルドの縁続きだったからな。さすがに腹に据えかねたのだろう。もっとも、当人は否定していたが」

 殿下が昼間の件を調べにお城に行くと、すぐに相手の方からおざなりな謝罪と説明があったんだそうだ。

「部下が命令を勘違いしただけだ、クリスタリア姫に危害を加えるつもりなど毛頭ない」と。

 おざなりなだけでなく、いかにも言い訳くさい。


「それで、この後どうするんですか?」

 私の質問に、「どうもしない」と殿下は答えた。

「証拠がないからな。仮にこちらが騒ぎ立てたとしても、適当に部下を処分して終わりにするだけだろう」

 そんな真似をしても意味がないと、実にあっさりした口調で言ってのける。

 それでも、騒ぐ人は騒ぐと思うけどね。意味なんかなくても、嫌がらせ程度にしかならなかったとしても。

 殿下はそういうの、好きじゃないのかな。

 まあねえ。命令された部下だって、好きでそんな仕事したわけじゃないだろうしねえ。


 一方パイラは、殿下の答えにちょっと首をかしげた。

「あいかわらずお優しいですね、殿下。だけどそれじゃあ、相手の思うツボじゃありません? 妹姫様のお庭で騒ぎを起こされて、何のお咎めもなしに許してしまわれるんですか?」

 おや、厳しいことを。

「許すわけではない」

と殿下は答えた。「貸しは貸しだ。いずれ返してもらう」


 どうやって返してもらうのか、とは聞く気にならなかった。代わりに、違う質問をする。

「そのラズワルドってどんな人なんですか?」

 兵士を使って幼い姫君の庭園を荒らすなんて、だいぶタチが悪いよね。真っ当な人間のすることとは思えない。

「ラズワルドはこの国の騎士団長だ。どんな人間かというなら……、そうだな」

 カイヤ殿下は、私の問いに少し考えて、

「簡単にいえば、王妃の血につらなる者は全て敵、という男だ」

 黙って話を聞いていたクリア姫の顔が曇った。

 王妃の血につらなる者。

 それはカイヤ殿下もクリア姫も、王妃様の妹姫を妻にしたという宰相も?

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