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魔女の末裔~新米メイドの王宮事件簿~  作者: 晶雪
終章 新米メイドのそれから
405/410

404 家族の再会

 父が王都に戻ってきたのは、それから約1週間後のことだった。


 7年ぶりの家族との再会は、わりと予想通りの展開になったらしい。

「お久しぶりです……」

と店先に現れた父を、祖父は容赦なく蹴り出して、


「てめえ、良い覚悟だな! そのツラ見せやがったらタダじゃおかねえって言っただろうが!!」

「すみません、本当にすみません!」


 土下座して謝っても許さなかったし、足元にすがりついても無駄だった。


「すぐに許してもらえるとは思っていません! これから一生かけて償っていく覚悟です!」

「やかましいわ! てめえの自己満足の償いなんぞに付き合ってられるか!」


 祖父は怒りを引っ込めず、父もまたしつこく食い下がり。

 そのうち村人たちが集まってきて、うちの店の料理と飲物を楽しみながら見物を始めて、やがて日が暮れて、夜が来て――。


「みっともないからやめなさい」


 最後は祖母の一喝により、喜劇のような状況は一旦、おひらきになったらしい。


 父と母の話し合いは、それとは別の時に、別の場所で、夫婦2人きりで行われたそうだ。

 くわしいことは教えてもらえなかったけど、父は例によって気弱に笑いながら、「やっぱり許してもらえなかったよ」と言っていた。

 ただ、今後も話し合いは続けていくとのことだから、全く望みがないわけでもないんだろうと思う。


 許す許さない以前に、父のことをちゃんと覚えているのかと懸念された妹の第一声は、「お父さんって生きてたんだ?」というものだったらしい。

 知らないおじさん呼ばわりよりはマシ……ってこともないか。父はやっぱり、ものすごく落ち込んでたし。


 そんな中、予想外の反応をしたのが弟だった。

 祖父に家から蹴り出されてしまったため、村の宿屋さんに泊まっていた父のもとをわざわざ訪ねてきて、

「あのさ。父さんって、王都に家とか持ってる?」

と聞いてきたのだという。

「僕、来年は王都の学校に通うつもりだから、家があるなら助かるんだけど」


 7年ぶりに会う息子に普通に話しかけられて、父は最初、戸惑いを隠せなかったそうだ。


「家は……。密偵の隠れ家的な部屋なら……」

「それって、あのゼオって人が住んでた家? すっごい治安の悪そうな場所に建ってた、お化け屋敷みたいな」

「いや、違うけど……。でも、どうかな。7年も帰ってないから、今どうなってるか……」

 そこで父はあることを思い出し、弟に尋ねた。

「そうだ、ゼオに聞いたよ。お義母さんと一緒に、王都まで来てくれたんだって?」


 それについては、私もだいぶ後になってからくわしく聞いた。

 家族の中でも、祖母とヤンは、7年前の真相を私に隠し続けることに否定的な考えを持っていて。

 私が家出して王都に行ってしまった後で、母を説得したり、祖父を説得しようとしてくれたり、秘密の共有者であるゼオの隠れ家を訪ねたりもしていたのだと。


「行ったけど? 姉さんを1人で放っておいたら、また馬鹿なことするんじゃないかって心配だっただけ。別に父さんのためってわけじゃないよ」

「ヤン……」

「そんな罪の意識でいっぱい、みたいな顔しなくていいってば。誰も言及しないから僕が言うけど、父さんが魔女に願わなかったら、姉さん、多分あのまま死んでたんだからさ」


 自分は感謝している、とヤンは言ったそうだ。別に無理をしている風でもなく、ごく自然体で。

 父が驚いて見せると、少しだけ考え込むような顔をした後で聞いてきた。


「あのクンツァイトの刺客だとかいう奴らが狙ってたのって、本当は僕だったんでしょ?」


 正確には、彼らが狙っていたのは「父とその息子」だった。


 当時は、次期国王候補と目されていた王子が事故死したばかりで。

 伯父にあたる騎士団長ラズワルドが、王子を守れなかった関係者に「後を追って死ね」という殉死命令を出して。しかも当事者だけでなく、「後継ぎが居る者はその命も差し出せ」というあまりに無茶な命令で。

 それに公然と異を唱えた貴族が居て、ラズワルドがキレて、その貴族の子供を始末しろとクンツァイトに命じて。


 その汚れ仕事を押しつけられたのがうちの父だったのだ。

 父はその命令には従わず、子供を逃がしてしまった。結果、自分と息子の命を狙われるに到った、と。


 こうして振り返ってみても、「理不尽」の一言では足りない。なんでうちの父が、まして弟の命まで狙われなければならなかったんだと、腹が立ってしょうがない。

 当事者のヤンは、少なくとも父の前では怒りを見せなかったそうだが、


「自分の代わりに姉さんが死んでたら、って考えるとさ。さすがにぞっとする」


 それだけは本気で嫌だという風に身震いしてから、すぐに真顔に戻ってこう言った。


「そういう意味で、父さんには感謝してるし、僕とユナはこの7年、特に不自由な思いもしてないからさ。そこまで気に病まなくてもいいよ」

「や、そういうわけには……」

「そう? ま、今からでも親の務めを果たしたいって言うなら、ありがたく乗っからせてもらうけど」


 7年も放っておいた息子に思いがけず寛大な言葉をかけられて、父は嬉しい反面、ひどく申し訳ない気持ちになったようだ。

「親の務め」を果たすべく、王都に戻ってきてすぐ、ヤンの部屋探しを始めた。学費も協力したいと、仕事探しにも熱心に取り組み始めた。


「ならば、我が仕事を手伝えばよかろう」

と提案したのはファイだ。

 彼には一応、財産があるらしい。公的には死んだことになっているはずの彼になぜ財産が? と疑問に思えば、例のお師匠様が、預けた蔵書と一緒に保管してくれていたんだそうだ。

 よほど無欲な人だったのか、単にお金に困っていなかっただけか。

 結構な額のお金が、いっさい手をつけられることなく残っていたのだという。


「まずは、本の移動を手伝え。その後は1日数時間でよい。我が研究のために、おぬしの体を使わせてもらうぞ」


 そういう条件で、ファイは父に賃金を支払うことになった。


 寝泊まりする場所については、当面、ゼオの隠れ家に同居させてもらうそうだ。

 7年前まで使っていた父の隠れ家は、経年劣化で建物が傷んで、雨風をしのぐことすら難しい状態になっていたから。


 そうして生活の目途がたったところで、父は約束通りハキム・クンツァイトに会いに行った。

 自分が目覚めた経緯を説明するため、あらためて7年前の礼を言うために。


 私も、同行した。

 娘として、7年前の事件の当事者として、当然ついていくべきだと思ったし、彼の孤児院がどんな場所なのか、個人的に興味があった。

 成り行き次第では父と同じ密偵か、運が悪ければ暗殺者に仕立て上げられていたかもしれない孤児たちが今、どんな暮らしをしているのか。自分の目で確かめたかったのだ。


 つまり、その時点ではまだ、孤児院で働きたいとまで考えていたわけじゃない。

 それが10日もたたないうちに雇用契約を結ぶところまで行っていたのだから、人生というのはわからないものだと思う。

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