表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の末裔~新米メイドの王宮事件簿~  作者: 晶雪
第十六章 新米メイドと魔女の塔
376/410

375 先代の考察

 こうして私とゼオは、ファイの案内で殿下と姫様を探しに行くことになった。

「カイヤとは下の階ですれ違った」

と言うので、まずは図書館から出ようとしたのだが。


 図書館は広かった。ありえないほど広かった。行けども行けども果てはなく、視界にはただ本棚がつらなるばかり。

「おい、本当にこっちでいいのか?」

 10分近く歩いたところで、たまらず、という感じでゼオが声を上げた。「さっきから同じ所を歩いてるような気がするんだが……」

 並んでいる本棚は全部同じ形だから、確かにそんな気がしてくるかもしれない。

 しかしファイは怪訝な顔をして、

「そのようなことはない。書物の種類をよく見るがいい。先程は歴史、今は地理だ」

 あいにく私もゼオも、そんな細かい所までは見ていなかった。


「繰り返すが、この塔は歪んでおるのだ。些細なことをいちいち気にするでない」

 それよりも話の続きをしろ、とファイは言った。

「その『姿なき魔女』とやらが、おぬしとカイヤをこの塔に招こうとしたのだな?」

「……はい。ですが宰相閣下は、その要求に従うのは危険だと」


 私はここに来るまでの経緯を、順を追って説明した。

 突然、王都の北に現れた塔。時を同じくして、王都の要人のもとに届けられた脅迫状。行方不明になった国母や、宰相閣下のご子息。


「『姿なき魔女』からの手紙には、今日の0時までに塔に来いって書いてあったんです。で、その時間になったら、急に――」


 世界が回り始めて、足元が消えて、真っ暗闇の中を落ちた。


 言ってる本人ですら意味不明な説明に、心配そうな顔をしたのはゼオだけで、ファイは「ふむふむ、なるほど」と普通にうなずいた。


「魔法の力だな」

「やっぱり、そうなんですか」

「うむ。おそらくは『魔女の七つ道具』のひとつ、『魔法の鏡』を使ったのだろう」

「魔法の鏡……」

「その鏡には空間を渡る力があってな。鏡から鏡へと移動できるのだ」


 鏡から鏡って。

 私は「魔女の憩い亭」の厨房から、気づいたらこの塔を囲む森の中に移動してたんですが。

 厨房に鏡なんてあった? ……いや、あるな。料理長さんがコック帽から髪の毛がはみ出していないかを確かめるのに、鏡をのぞき込んでいる姿を何度か見たことがある。

 でも、出口の方は? 普通に考えて、森の中に鏡なんてないはずだよね?


「手近な木の幹にでも掛けておけばよいではないか。あるいは地面の上に置いておくだけでもよい」


 その「魔法の鏡」を使った何者かが、最初から私をこの場所に連れ去るつもりでいたのなら、それくらいの準備はしておくだろうとファイは言った。


「左様なことより疑問なのは、その何者かが如何いかにして秘宝を手に入れたかだ」

 魔女の七つ道具は本来、お城の宝物庫で厳重に保管されている。

「杖と同じく、鏡も盗まれたのか?」

 そんな話は聞いてない。盗難被害にあった王家の秘宝は、ファイが言う通り「白い魔女の杖」だけのはずで――。


「って、杖を盗んだのはあなたじゃ……」


 私が言うと、ファイは思いきり気分を害したようだった。


「それについては知らんと申したであろうが。あの杖は、ルティだかルビーだかいう小娘が持っておったのだ。どこでどうやって手に入れたのかなど知らん」


 ああ、そっか。前にお屋敷を襲撃してきた時にもそう言ってたっけ。


「普通に考えれば、怪しいのはその『姿なき魔女』であろうな」


 まあ、そうですね。

 もしもあの魔女が「魔法の鏡」まで持っているのだとしたら、杖の盗難事件にだって関わっている可能性は大いにあるだろう。


「今の王国に、リシア以外の魔法使いはおらぬはずだからな」

 ファイはやたら広い図書館を見回して、

「仮にリシアでも、これほどの規模の魔法を使おうものなら、相当な代償を必要とするはずだ」

 力には代償がいる。生まれつきの魔法使いでも、秘宝の力を借りた場合でも、無制限に魔法を使えるわけじゃない。


「ってことは、その『魔法の鏡』も――」

「何らかの代償はいるはずだ。くわしいことは知らんが」


 元王様のこの人でも知らないんだ。王位に就いていた時に調べてみようとは思わなかったのかな?


「我はお飾りの王だったからな。使い方次第では国を傾ける秘宝に、おいそれと触れさせるわけがない」


 言われてみればそうか。だから「白い魔女の杖」を手に入れた時に、あれこれ魔法を使って試してたのね。


「……なあ」

 一瞬落ちた沈黙に、口をひらいたのはゼオだった。

「その魔法の鏡とやらは、人を鏡の中に閉じ込めたりもできるのか?」

 ゼオはファイではなく私の方を見て、

「さっき、シムの所のじいさんが……」

「あ」

 そういえば、うちの祖父のニセモノは鏡の中に居た。あれもその秘宝の力と関係あるってこと?

「何だ、何の話だ?」

 ファイに尋ねられて、私たちは説明した。

 そのニセモノが「出でよ、しもべども」とか言ったら、まるで操り人形みたいな騎士たちが現れて襲われたことも。


 ファイは腕組みをして「ふーむ」と唸った。

「左様な話は初耳だが……。とはいえ『魔女の七つ道具』自体、謎が多い代物だからな」

 きらりとその目が輝く。私とゼオの顔を見比べて、

「百聞は一見にしかず。まずはその鏡のもとに我を案内せよ」

 いや、今はあなたが私たちを案内してるところですから。普通に忘れないで?

「カイヤが居た場所に今から行ってみたところで、あやつがそこに留まっているとは限らんだろうが」

 それはその通りだけど、今更そんなことを言い出されてもね?

 要は、気になることができたからそっちを優先したくなっただけでしょ。本当にどこまで勝手なんだか。


 キレそうになっている私とは対照的に、ゼオはなぜか冷めた目をして、

「多分、案内する必要はないんじゃねえか」

と言って、前方を指差した。

「あそこにもあるぞ。妙な鏡が」


 そこには1枚の大扉が。ようやくたどりついた図書館の出口があった。

 そして、扉の横に1枚。さっき見たのとよく似た、アンティークっぽい丸鏡が掛けてある。

「助けて……。どうか助けて……」

 鏡の中にはドレスをまとった美しい女性が居て、うっすらと涙ぐみながらこちらに助けを求めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ