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魔女の末裔~新米メイドの王宮事件簿~  作者: 晶雪
第十六章 新米メイドと魔女の塔
374/410

373 不本意な再会1

 ゴゴッと音を立てて、壁が動き出す。

 何の変哲もない石壁が左右に割れて――現れたのは扉。いわゆる隠し扉だった。


 扉の中には通路がのびていた。

 薄暗くて狭い、抜け道みたいな通路が。


「ゼオさん、こっち!」


 私は騎士たちと戦っているゼオを大声で呼んだ。


「何だ、どうした!?」

「いいから来てください! なんか隠し通路っぽいのを見つけたんです!」


 冷静に考えれば、そこが今居る場所より安全だと決まったわけではなかったが、あいにくその時の私には――それにゼオにも、冷静に判断する余裕なんてなかったのだ。

 2人で通路に駆け込み、扉を閉めて。

 親切なことに、扉の内側にはかんぬき型の鍵が2つもついていたので、しっかりと施錠してから、通路の奥に逃げた。


 ドンドン!


 扉を破ろうとしてるんだろう。激しい音が聞こえたが、それもやがて遠ざかり。

 不気味なほどの静寂に包まれたところで、私たちは通路を抜けた。


「って、図書館……?」


 もう何が何だかわからない。通路の先にあったのは、本棚がずらりと並ぶ図書館だった。

 あるいは、すごく高級な本屋さん、という可能性も捨てきれないが。

 吹き抜けになった天井に、広々としたホールのような空間。ぱっと見た感じの内装は王室図書館によく似ている。


「マジで何なんだ……」

 ゼオはぐったりしている。戦いで疲弊したというより、あまりにカオスな状況にメンタルの方がヤバくなってきたらしい。

「あ、さっきの通路、消えてる……」

 ふと気づけば彼の背後に、あるべきはずの通路の出口がない。それを指摘すると、ゼオはますます疲れた顔でその場に座り込んでしまった。

「すまん。少しでいいから休ませてくれ……」

 気持ちはわかるけど、休んでる場合かなあ。

 かといってゼオを置いていくわけにもいかないので、しばし無言でその場に立っていると。


「……、…………」


 耳が、何かの音を拾った。

 ゼオもハッと顔を上げる。


「今のって――」

「シッ」


 黙っていろとささやかれて、私はじっと動かないまま、耳だけに意識を集中させた。


「……から、……しないと……」

「……わかっ……、あと少し……」


 それはどうやら話し声であるらしかった。

 おそらくは男の声で、おそらくは2人。

 言葉を交わしながら、少しずつこちらに近づいてくる。

 ドサドサと、重たい物を動かすような音も聞こえた。


「これだけの数の蔵書だ。1冊くらいは本物が混じっていても良かろうに」

「いや、それはないよ。他の場所と同じで、多分この図書館も偽物――」


 あれ、この声? と私は思った。

 ゼオも気づいたらしく、やおら立ち上がると声がする方に向かって駆けていく。


「……あれ、ゼオ?」

「おお、何だ。おぬし、今までどこへ行っておったのだ」

「シーッ! しゃべるな!」


 言い争う声と、何やらもみ合うような物音を聞きながら、私もゼオの後について駆けていった。

 立ち並ぶ本棚の間をすり抜け、声のした方をのぞくと、そこには――。


 ごく平凡な顔立ちをした、中肉中背の男が1人。

 本棚から抜き出したとおぼしき大量の書物を足元に積み上げ、両手にも本を抱えて。

 なぜか背中からゼオに組みつかれ、両手で口をふさがれた状態で立っていた。


「……っ! とぅ――」

 思わず「父さん」と呼んでしまいそうになって、寸前で踏みとどまった。


 あれは父じゃない。体は父でも、中身は違う。


 男の名はファイ・ジーレン。本名はアダムス・クォーツ。

 魔女オタクの研究者で、悪名高き先代国王。

 あの魔女の霊廟から父の体を持ち逃げした、はた迷惑な盗っ人だ。


 私はキッと顔を上げ、つかつかとファイに歩み寄った。

「……ようやく、会えましたね」

 ここで会ったが100年目、という気分でにらみつけてやる。ゼオに組みつかれたまま、男の目がぱちぱちとまばたきを繰り返す。

「私の父を、父の体を返してください。先代国王陛下」

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