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魔女の末裔~新米メイドの王宮事件簿~  作者: 晶雪
第十六章 新米メイドと魔女の塔
373/410

372 傀儡の群れ

 硬質で金属質なその音は、騎士の鎧が鳴る音だった。

 ガシャッ、ガシャッと。

 重たい音を立てながらこちらに近づいてくる。


 光沢のある鋼の鎧に身を包み、抜き身の剣を引っ下げて。

 廊下の奥から姿を現したのは、ホラーとかでよく見る、がらんどうの動く鎧――かと思いきや、中身は人間だった。


 眼光鋭く、長いあごひげを生やした体格のいい老人で、私にとってはほんの2度ばかりとはいえ、顔を見たことがある相手だった。

 ラズワルド。歴史ある五大家の当主。王国の騎士団長にして、殿下や宰相閣下の仇敵。

 あの儀式の日以来、行方不明になっていたという王国の重鎮が、全身武装で現れて――そして剣の切っ先をこちらに向けてきた。


「下がってろ!」

 ゼオが叫んで、武器を抜き放つ。ほとんど同時に、騎士団長が斬りかかってくる。

 ゼオはほんの少し立ち位置を変えただけでその攻撃をかわすと、突っ込んできたラズワルドの顔面をナイフのつかで打ちすえた。

 ゴッと鈍い音を立てて、ラズワルドがのけぞる。

 ゼオはさらに追い打ちをかけようとして、途中で思い直したように私の方を振り向いた。


「……なあ、これって殺さない方がいいのか?」

「え? えーっと……」

 私は一瞬迷った。

 そりゃ殺さずにすむならその方がいいに決まってるけど、

「それ以前に、あの、生きてるんですよね?」

 騎士団長の顔色は異様に悪く、その表情は凍りついたように動かない。

 しかも現れた状況がホラーっぽかったので、私はついそんな質問をしてしまった。


「一応、息はしてるな」

とゼオは答えた。

 また斬りかかってきたラズワルドの攻撃をひょいとかわし、その膝の裏側辺りに靴底を叩き込む。

 ラズワルドはがくんと体勢を崩したものの、呻き声のひとつも上げず、痛みに顔をしかめることもなかった。

「人形かよ」

とゼオがつぶやいたが、まさにそんな感じ。今の騎士団長は、まるで誰かのあやつり人形みたいだった。


「これも何かの魔法……?」

「ったく。わけがわからねえな」


 悪態をつきながら、ゼオは斬りかかってきたラズワルドをさして力も入れずに蹴り転がし、背中から馬乗りになって押さえつけようとした。

 が、その時。

 ガシャッ、ガシャッという不吉な足音が、再び廊下の向こうから響き出した。

 その音は途中でガシャガシャという駆け足に変わり、さらにその後から、複数の足音が重なって聞こえ始めて――。


 やがて廊下の奥から現れたのは、鎧姿の騎士たちだった。

 年齢はバラバラ。若い人も居れば中年男性も居る。皆、一様に顔色が悪く、人形のように表情がない。

 そして全員が何らかの武器を持っている。剣、槍、斧、ボウガンのような飛び道具まで。実にバラエティに富んでいる。


「だーっ!!」

 ゼオが一声叫んで駆け寄ってくると、私の体を抱えて走り出した。

 うん。逃げるしかないよね。ただ、私は別に自分の足で走れるんですけど?

「いいからじっとしてろ!」

 ゼオが怒鳴る。

 実際、彼は速かった。さすが伝説の巨人殺しと言うべきか、人1人抱えているとは思えないスピードだ。


 ちなみに、彼が向かったのはエントランスホールの方だった。

 一旦この塔から出るつもりだったのか、他に考えがあったのかはわからない。

 しかし、いくら進んでも私たちが出口にたどり着くことはなく、それどころか、まっすぐだったはずの廊下がぐねぐねと歪み始めた。


「何かおかしくないですか!?」

「だから言ったろ! この塔は変なんだって!」

「ちょ、天井が低くなってきてません? 廊下の幅も狭く――」


 戻った方がいいんじゃないかと私は言いかけたが、今来た方を振り向いてみれば、鎧をまとった騎士たちが通路を埋め尽くしていた。

 顔色が悪くて、無表情の男たちが、みっちりと廊下につまっていたのだ。

 率直に言って怖い。怖い上に不気味だ。


「あー、しょうがねえな。ここは俺が食い止めるから、あんたは逃げろ!」

「ええ? でも……」

「本当は離れない方がいいんだがな! 乱戦になったら、あんたを守り切れるか自信がねえ!」

 言うなり、ゼオは私の体を下ろし、押し寄せてくる騎士たちに向き直った。


 どうしよう。逃げた方がいいの? でも、ゼオと離れた後でまた何かに襲われたら、1人で切り抜けられるかわからない。

 迷いながら後ずさりした時だ。

 カチッと音がした。

 それは何かのスイッチが入ったような音だった。

「…………」

 おそるおそる足元を見れば、石造りの床が四角くくぼんでいる。

 これはもしや、何らかの仕掛けを起動するスイッチで、普通に考えれば何かの罠で、私はふれてはいけないものにふれてしまったのではと。


 気づいた時には、仕掛けが作動していた。

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