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魔女の末裔~新米メイドの王宮事件簿~  作者: 晶雪
第十五章 新米メイドと呪われた王子
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336 新米メイド、匿われる1

 厨房は無数の音で満ちていた。


 ぐつぐつ。スープが煮える音。

 ジュージュー。お肉の焼ける音。

 ガチャガチャ。食器が鳴る音。


 そして、飛び交う人の声。


「日替わり定食、3人前! デザートセットで!」

「3番テーブル、ドリンク追加! 至急!」

「今日のオススメパスタ2人前、上がったよ! 7番、よろしく!」


 勢いよく交わされる会話を耳の端で拾いつつ、私はちらりと壁掛け時計に目をやった。

 午後1時半。ランチタイムは2時までだから、そろそろお客の数も減り始める。この戦場のような騒がしさも、じきに落ち着いてくる頃だ。


 ――お腹すいた。今日の賄いは何だろう。


 昨日は魚介のシチューだった。その前は牛すじのトマト煮込み。どっちもすごく美味しかった。

 思い出して恍惚こうこつとなる私に、背後から足音が近づいてきた。

「こっちもお願い、エリーさん!」

 長い髪をポニーテールにしたウェイトレスさんが、使用済みの食器を山ほど置いて行く。

 入れ替わりにやってきた白い調理服の女性が、洗い上がったお皿を20枚くらいまとめて持っていった。


 おっと、いけない。ぼんやりしてる場合じゃなかった。

 止まりかけていた手を動かし、私は汚れた食器を泡だらけのスポンジで洗う作業に集中した。


 ここは「魔女の憩い亭」の厨房。

 数日前から、私はこの店で働いている。

 本名のエル・ジェイドではなく「エリー」と芸もひねりもない偽名を名乗り、目立つ白い髪は、頭上に結い上げて三角巾で覆い隠し。

 お古の調理服に身を包み、厨房の隅っこで顔をうつむけて、汚れたお皿をひたすら洗い続けている。

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