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魔女の末裔~新米メイドの王宮事件簿~  作者: 晶雪
第十四章 新米メイドとひとつ目の巨人
331/410

330 封印の剣

 魔女が崩れ落ちる。

 どさりと重たい音をたてて大地に落ち――次の瞬間、その体が黒い霧のようなものに変わった。

 同時に、クリア姫が手にした短剣が怪しい紫色に発光する。

 あの霊廟の鍵が――今は短剣のつか部分に固定されているカラスが羽を広げた形のペンダントが、ひときわ強く鮮烈な輝きを放ったかと思うと、黒い霧となった魔女の体を、見る間に吸い込んでいく。

 本当に、あっという間だった。時間にして10秒にも満たない。


 光が消えた時、そこには何も残っていなかった。

 魔女も、黒い霧も。

 ただひとつ、魔女が持っていた抜き身の短剣だけが、取り残されたように地面に転がっていた。


『…………』

 何も言えなかった。

 私も、クリア姫も、しばらくの間、ただ無言で――。


「……エル?」

 聞こえた小さな声にハッとする。

「うまく、いったのだろうか?」

 クリア姫が私を見上げている。もともと大きな瞳をいっぱいに見開いて。


 私は慌ててこくこくとうなずいた。それから「姫様、大丈夫ですか? おケガはありませんか?」と今更のように問いかけた。

「大丈夫だ。私は大丈夫だ」

 クリア姫も興奮状態で何度もうなずいて見せる。

「それより、魔女はどうなったのだ? 私には短剣が光ったところしか見えなかった……」

 やっぱり、姿が見えていたわけじゃないんだ。でも、それならどうしてあいつの居場所が?

「それは……、エルが戦う姿を、しばらく見ていたのだ」

 私の視線の向きや動きから、そこに何かが居ると確信して――最後は私がとっさに我が身をかばうのを見て、助けなければと夢中で飛び出したらしい。


「ファイ殿は仰っていた。この短剣は悪しき魔法を封じる力だと」

 姿の見えない魔女なんて、何か魔法のような力を使っているに違いない。ならば封印の力が効くのではと考え、ダンビュラのもとに剣を取りに行った。

 しかし、そこは激しい戦いの現場。騎士たちは皆、殺気立っていて、クリア姫の存在にすら気づいてくれない。

 困っていた時、ふと地面の上で何かが光っているのに気づいた。


「近づいてみると、この剣だった」

 短剣をくわえて戦っていたはずのダンビュラは、いつのまにか自前の爪と牙で魔女の像に攻撃していた。

 石の像に短剣では効果が薄かったのか、あるいは戦いに夢中になるあまり放り出してしまったのか。

 ともかく封印の剣を手にしたクリア姫は、魔女と戦う私のもとにとって返し――そしてたった今、絶体絶命のピンチを救ってくださったのだ。


「うまく行ったのだな? そうなのだろう? なんとなくだが、手応えがあった気がする……」

 ゆっくりと視線を下げて、自分の両手を見つめるクリア姫。

 何かを思い出すように、確かめるように。

 じっと手を見る幼い姫君を、私は力いっぱい抱きしめていた。


「ありがとうございます! 助けてくださってありがとうございます!」

 見えない魔女に立ち向かうなんて、何という勇気。身を挺して私をかばってくださるなんて、なんという優しさだ。

「姫様、凄いです! 格好いいです! おとぎ話に出てくる英雄みたいです!」

「大げさなのだ、エル……。私はただ夢中で……」

 クリア姫は戸惑い顔で否定したけど、私にとっての英雄は間違いなく姫様だ。

 本当に凄い、カッコイイ、と私は繰り返した。


 あの魔女は、人を苦しめて喜んでいた。そんなろくでもない奴だったのだ。

 だから、姫様は何も間違っていない。

 刺された瞬間、霧となって消え去るような奴が普通の人間だったとも思えない。

 だから姫様は、人を刺したわけじゃない。……殺したわけじゃない。

 どうかどうか、ほんのわずかでも罪悪感に苦しんだりしないでほしい。


「あいつは、あの動く魔女の像を操っていた奴かもしれないんですよ」

 だとすれば、助けられたのはきっと私だけじゃない。カイヤ殿下とハウライト殿下も今頃――。

 私たちはハッと顔を見合わせた。

「そうだ、兄様たちは!?」

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