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魔女の末裔~新米メイドの王宮事件簿~  作者: 晶雪
第十四章 新米メイドとひとつ目の巨人
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329 戦うメイドさん3

「てやあっ!!」

 先手必勝、私は足元から拾った枯れ枝を、空中の魔女に向かって投げつけた。

 読まれていたのか、あっさりかわされた。

「くっ!」

 動揺する私に、魔女が近づいてくる。ニヤニヤと、獲物をいたぶるような笑みを浮かべて――あの礼拝堂でも使っていた短剣を、再びローブの中から取り出して。

 でも残念、今のはおとり

 私はじりじりと後ずさるフリをして手元を魔女から隠し、不用意に距離をつめてきたところに、隠し持っていた小石を投げつけた。

 はい、今度は当たり!

 顔面に小石をくらった魔女は大きく体勢を崩し、持っていた短剣も手からすっぽ抜けて飛んでいった。


 この魔女やっぱり、戦いは素人なんだよなあ。

 こんな小娘のワナにあっさり引っかかるくらいだし。

 厄介なのは、重力を無視したその動き。

 私は一応、護身術の心得もある。でも、ふわふわと宙に浮いている相手に足払いは使えないし、関節をめるにしても、まずは触れられなければどうしようもない。


 私の思考を読んだわけでもあるまいが、魔女はそこそこ美しい顔を歪めて、

「生意気な小娘め。けがれた土塊つちくれから生まれたガキめが」

と悪態をついた。

 土塊うんぬん、というのは一般ピープルへの差別語である。平民階級も力をつけてきた昨今、面と向かって言われることはまずない言葉だ。

「そう言うそちらは、高貴なお生まれでいらっしゃるわけですね」

 私は鼻で笑ってやった。

「本当に高貴な方々はそんな言葉は使いませんし、人が土から生まれるわけがないことくらい知っていますけどね!」

 セリフと同時に、後ろ手に持っていた小石を投げつける。

「そう何度も同じ手が通じるか!」

 わめきながら身をかわす魔女に、私はダッシュで迫った。


 今、魔女は素手だ。短剣はさっきすっぽ抜けてどこかに飛んでいった。

 だから今のうちに、勝負を決めて――と思ったのに。

 魔女がてのひらをかざすと、地面に落ちたはずの短剣がふわりと浮き上がり、その手の中に舞い戻った。


 ……そんなこともできるんかい。


 慌てて足を止めた私に、短剣を持った魔女が肉薄する。

 私はすぐに体勢を立て直すこともできず、とっさに目を閉じ、両手で顔をかばうのが精一杯だった。


 その時、足音が聞こえた。

 森の大地を蹴り、駆け寄ってくる、小動物のような軽い足音だった。

 何かがぶつかる音。ぐえっという醜い悲鳴。


「……?」

 そっと様子をうかがうと、目の前に魔女が居た。

 私に攻撃するため、下りてきて――そして今、地面すれすれの所でぴたりと固まっている。

 その瞳は驚愕に見開かれ、だらしなく口を半開きにして、自分の体を見下ろしている。

 魔女の視線をたどって、私も気づいた。

 自分と、魔女の間に、小さなお姫様が立っていること。

 まっすぐに前を見て、震える手で突き出しているのは封印の刃。

 あの魔女の霊廟で手に入れてきた短剣が、邪悪な魔女の体を空中に縫い止めていた。

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