329 戦うメイドさん3
「てやあっ!!」
先手必勝、私は足元から拾った枯れ枝を、空中の魔女に向かって投げつけた。
読まれていたのか、あっさりかわされた。
「くっ!」
動揺する私に、魔女が近づいてくる。ニヤニヤと、獲物をいたぶるような笑みを浮かべて――あの礼拝堂でも使っていた短剣を、再びローブの中から取り出して。
でも残念、今のは囮!
私はじりじりと後ずさるフリをして手元を魔女から隠し、不用意に距離をつめてきたところに、隠し持っていた小石を投げつけた。
はい、今度は当たり!
顔面に小石をくらった魔女は大きく体勢を崩し、持っていた短剣も手からすっぽ抜けて飛んでいった。
この魔女やっぱり、戦いは素人なんだよなあ。
こんな小娘のワナにあっさり引っかかるくらいだし。
厄介なのは、重力を無視したその動き。
私は一応、護身術の心得もある。でも、ふわふわと宙に浮いている相手に足払いは使えないし、関節を極めるにしても、まずは触れられなければどうしようもない。
私の思考を読んだわけでもあるまいが、魔女はそこそこ美しい顔を歪めて、
「生意気な小娘め。汚れた土塊から生まれたガキめが」
と悪態をついた。
土塊うんぬん、というのは一般ピープルへの差別語である。平民階級も力をつけてきた昨今、面と向かって言われることはまずない言葉だ。
「そう言うそちらは、高貴なお生まれでいらっしゃるわけですね」
私は鼻で笑ってやった。
「本当に高貴な方々はそんな言葉は使いませんし、人が土から生まれるわけがないことくらい知っていますけどね!」
セリフと同時に、後ろ手に持っていた小石を投げつける。
「そう何度も同じ手が通じるか!」
わめきながら身をかわす魔女に、私はダッシュで迫った。
今、魔女は素手だ。短剣はさっきすっぽ抜けてどこかに飛んでいった。
だから今のうちに、勝負を決めて――と思ったのに。
魔女がてのひらをかざすと、地面に落ちたはずの短剣がふわりと浮き上がり、その手の中に舞い戻った。
……そんなこともできるんかい。
慌てて足を止めた私に、短剣を持った魔女が肉薄する。
私はすぐに体勢を立て直すこともできず、とっさに目を閉じ、両手で顔をかばうのが精一杯だった。
その時、足音が聞こえた。
森の大地を蹴り、駆け寄ってくる、小動物のような軽い足音だった。
何かがぶつかる音。ぐえっという醜い悲鳴。
「……?」
そっと様子をうかがうと、目の前に魔女が居た。
私に攻撃するため、下りてきて――そして今、地面すれすれの所でぴたりと固まっている。
その瞳は驚愕に見開かれ、だらしなく口を半開きにして、自分の体を見下ろしている。
魔女の視線をたどって、私も気づいた。
自分と、魔女の間に、小さなお姫様が立っていること。
まっすぐに前を見て、震える手で突き出しているのは封印の刃。
あの魔女の霊廟で手に入れてきた短剣が、邪悪な魔女の体を空中に縫い止めていた。