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魔女の末裔~新米メイドの王宮事件簿~  作者: 晶雪
第十四章 新米メイドとひとつ目の巨人
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325 戦うメイドさん2

 が、しかし。

 私の窮地を救ってくれたのは、メイド服に身を包んだ戦うメイドさんだった。

 白いメイド帽、ひらひらフリルのついたエプロン、ミニスカートにしましまのニーハイソックス。黒髪をショートカットにした、小柄で敏捷そうな女の子。

 それこそフィクションの世界でしか見ないだろうって感じのメイドさんだが、

「ミケ!」

 金髪兄弟が歓声を上げた。

 彼女はケイン・レイテッドの飼い猫である。

 言葉を話し、人の姿に化け、普通の猫を操ったりもできる。その正体については謎である。


 魔女の瞳が驚愕に見開かれた。

 それもそのはず、ミケは魔女の手首をつかんで止めていた。

 私と金髪兄弟以外、姿を見ることができなかった、その存在に気づくことさえできなかった魔女をつかんで、止めたのだ。しかもキッと相手の顔をにらみつけたかと思うと、

「ケインさまの家族に手を出すな!」

 叫んで、投げ飛ばした。

 魔女は勢いよく転がっていき――2階席に居た護衛や従者を何人か巻き添えにして止まった。

 くどいようだが、その場のほとんどの人には魔女の姿が見えていない。

 いきなり人が倒れて、転がって。理解が追いつかなかったんだろう。辺りは騒然となった。


「何だ、何が起きている!」


 混乱する人々の間を縫うようにして、2階席に入ってきた地味な男が居た。20代後半、ぱっと見は無害そうな、目立たない風貌の男である。

「あ、ちちうえ」

「遅いぞ、今まで何をしていた?」

「まあ、あなた。今日はもう来ないのかと思っていたわ」

 金髪兄弟が、それにレイシャが、男に声をかける。

「遅くなってすまないね。ちょっと調べたいことがあってさ」

 そう言って、なぜかまっすぐに私の方へと近づいてくる男――ケイン・レイテッド。

 彼は私にとって、あまり相性の良くない相手である。思わず防御姿勢をとると、

「ねえ、君。……見えてるんだよね?」

 え? と聞き返す私。ケインはじれったそうに顔をしかめて、

「だから。ミケと戦ってる敵の姿が見えてるんでしょ、って聞いてるんだよ」

「……っ! はい。見えておりますが……」

 なんで、ケインがそれを? まさか彼にも見えるの?

「具体的にはどんな奴? どんな姿をして、どんな武器を持って、どんな動きをしてる?」

 ……違った。見えてるわけじゃないんだ。だったらなんで魔女のことを知っているのか疑問だが、

「いいから、早く答えて」

 この状況では、いちいち問い返すわけにもいかないだろう。


「えと、そこに居るのは魔女です。ローブを着て、フードをかぶって、武器は短剣を持ってます。貴族の皆様が護身用に持ち歩くような、わりと高価そうなデザインの……」

「細かい所はいいから。それより、質問の続き」

 有り体に言って、その魔女は強そうかとケインは聞いてきた。

「あ、いえ……」

 空を飛んで1階から2階席に来たり、ふわふわとつかみどころのない動きをしたりと、厄介な相手だが――それでもメイドの私が多少は応戦できたのだ。

「戦いの心得がある人でしたら、さほど恐れる必要はないかと」

 姿さえ見えれば、ね。どんな武芸の達人でも、見えない敵と戦うのは至難のわざだと思う。


「おい、ケイン。いったい何の話だ?」

 話に口を挟んできたレイルズに、ケインは投げやりに返答した。

「つまり、この場所には今、姿の見えない敵が居て、そいつは魔女の格好をしてるってこと」

 そうだそうだと同調するリハルトとリーライ。

「む……」

 レイルズは一瞬考え込んだが、「君は考えなくていいよ。時間の無駄だから」とケインに言われて、本当に考えるのをやめてしまった。

「そうか、わかった。つまりこの場所には魔女が居る、と」

 あっさり納得する弟を横目でにらみつつ、ずっと黙していたレイリアが口をひらいた。

「……その魔女とやらは今、どうしているの?」

 質問されたのはケインだが、彼には魔女の姿が見えない。なので、「どうしてる?」と私に振ってきた。

「えっと……、今は空中に居ます……」

 多分、ミケを恐れて逃げたんだと思う。2階席からはだいぶ距離をとり、何もない場所に浮いている。

「こらー! 下りてこーい!」

とじれったそうに叫ぶミケ。


 レイリアはその視線の向きを目で追って、だいたいの位置に見当をつけたらしい。

「弓でもあれば届きそうね。誰か持っていて?」

 自分の護衛に――色とりどりのメイド服を着た女の人たちに声をかける。

 レイテッド家では、戦うメイドさんがデフォルトなんだな。ど派手なメイド服は戦いには不向きに見えるが、実は動きやすい戦闘服だったりするんだろう、きっと。

「やめた方がいいよ、義姉上あねうえ。ミケは弓が得意じゃないから。この場所にはうっかり射抜いてしまったらマズイ人も居るし」

 ケインの目は隣国の王太子殿下を見ているけど、そもそも「うっかり射抜いてしまってもいい人」なんて居ないだろ。居たとして王様くらい?


「それなら、あなた。弓は使える?」

 って、私ですか。そんなスキルを一般人のメイドに期待されても困るんですが。

「何だ、できないの?」

 無能を見る目をして、せせら笑うケイン。

「……はい、申し訳ありません」

 私は殊勝に詫びた。

「あいにく、弓の心得は全く。ですが『的当まとあて』は得意なので、石でもあればお役に立てるかと」


 的当てとは書いて字の如く、十数メートル離れたまとの真ん中を狙って石を投げ、正確さを競う遊びだ。

 故郷の村祭りでは定番のもよおし物だった。ちなみに、昨年度の優勝者は私の祖父である。私自身も4、5年前に、少年少女の部で優勝した経験がある。今でもその気になれば、嫌味な男の頭をかち割ってやることくらいできるはずだ。


「君ってつくづく野蛮だよね。姫君のメイドなんて似合わない仕事は今すぐやめて、地下闘技場の闘士にでもなったら?」

「お褒めにあずかり、恐縮です」

 私とケインが不毛な火花を散らしている頃、階下では騎士たちと動く魔女の像の戦いが激しさを増していた。


 巨像の手が礼拝堂の座席をつかんで持ち上げ、クロサイト様めがけてぶん投げる。

 ひらりと軽くかわしたクロサイト様は、正面から巨像に向かって疾走。ぶつかる寸前で軌道を変えて、すれ違いざまに手にした魔剣を――。

 私の目では、何をしたのかよく見えなかった。とにかく速くて、鋭い攻撃だった。

 魔女の像が体勢を崩し、片手を床に突く。

 それを好機と見たジェーンが、像の顔面にメイスを叩きつける。


 ――ごわしゃあっ!!!


 今までになく大きな破壊音を立てて、石像の首から上が吹っ飛んだ。

 味方の騎士たちから歓声が上がり、2階席で様子を見守っていた人々の間にもどよめきが広がり、そして――。

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